魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊

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7章 選ばれし刃

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旅を続けて数日、二人は黒の峡谷の入口へとたどり着いた。その場所は険しい岩山に囲まれ、濃い霧が立ち込めている。峡谷から漂う不気味な魔力の気配に、空気が肌を刺すようだった。

「ここが黒の峡谷……思ったよりも荒れてるね。」
アリアが剣を腰に携えながら、険しい岩肌を見上げた。

「予想通り、魔力の濃度が高い。魔物も多く潜んでいるはずです。慎重に進みましょう。」
イアンが杖を構えながら答える。

二人は互いに周囲を警戒しつつ、峡谷の中へと足を踏み入れた。足元の石は黒く艶やかで、時折小さな光の粒がちらついている。

しばらく進むと、霧の中から小さな魔物が現れた。それは狐のような姿をしており、鋭い爪と赤い目が特徴的だ。

「来た!」
アリアが剣を構える。

「油断しないでください。この魔物は動きが速い。」
イアンが冷静に分析する。

狐型の魔物は素早い動きでアリアに襲いかかるが、彼女は剣を軽やかに振り下ろし、正確に仕留めた。

「ふぅ、これくらいなら問題ないね!」
アリアが息を整える。

「しかし、これが序盤の相手だと考えると、奥へ進むほど強敵が現れるでしょう。」
イアンは狐型の魔物の残骸を観察しながら言った。

峡谷の奥へ進むにつれて、霧はさらに濃くなり、視界がほとんど効かなくなった。イアンが魔法で小さな光源を作り出し、周囲を照らす。

「ありがとう!これで少し見やすくなったよ!」
アリアが笑顔で礼を言う。

「霧には魔力が含まれているようです。この光も完全には貫通できない。」
イアンは険しい顔をしていた。

そのとき、周囲の霧が不自然に渦を巻き始めた。

「……まずい、これは罠です!」
イアンが声を上げる。

霧の中から現れたのは、巨大な蛇のような魔物だった。鱗の一つ一つが黒い宝石のように輝き、目は不気味な緑色を放っている。

「出た!大物だね!」
アリアが剣を構える。

「これは手強い。距離を取りながら攻撃を仕掛ける必要があります。」
イアンが魔法を詠唱し始める。

蛇型の魔物は鋭い牙を剥き出しにして突進してきたが、イアンの氷の魔法がその動きを一瞬鈍らせる。

「今だ!」
イアンが声をかけると、アリアが剣を振り上げ、勢いよく斬りかかった。

しかし、魔物の鱗はあまりに硬く、剣が弾かれてしまう。

「くっ……効かない!」
アリアが歯を食いしばる。

「物理攻撃が通用しない……弱点を探す必要があります!」
イアンが冷静に周囲を見渡す。

そのとき、魔物の攻撃を避けたアリアが偶然岩場に触れた。その瞬間、岩が淡く光を放ち始めた。

「えっ、何これ?」
アリアが驚く。

「岩が……君に反応している。」
イアンが目を細める。

岩の光は魔物の動きを一瞬止め、周囲の霧を払うように広がっていった。魔物はその光に怯えるように後退する。

「これって……もしかして私の魔力ゼロが関係してるの?」
アリアが問いかける。

「間違いありません。この霧や魔物の力が、君の存在によって干渉を受けている。」
イアンが分析する。

「じゃあ、この光を使えば!」
アリアは再び岩に触れ、光を広げる。魔物は動きを鈍らせ、その隙にイアンの氷の魔法が命中した。

「ナイス!」
アリアが喜びながら剣を振り上げ、今度こそ魔物の首元に一撃を加える。魔物は苦しげに叫び声を上げながら地面に崩れ落ちた。

「ふぅ、何とか倒したね。」
アリアが額の汗を拭う。

「君の特異性がなければ、厳しい戦いでした。」
イアンが静かに言う。

「そうかな?でも、イアンがいてくれたからこそ勝てたんだよ!」
アリアが笑顔で答える。

イアンはその言葉に少しだけ戸惑いながらも、短く頷いた。

「まだ奥があります。気を抜かないで進みましょう。」

二人はさらに奥へと歩みを進め、選ばれし刃の謎に近づいていく――。
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