魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

7章 選ばれし刃

①

ギルドの一室で、ユーゴは机に広げた古い文献をじっと睨んでいた。石碑の刻印――「魔力を持たざる者、その手に選ばれし刃を」という言葉が頭の中で何度も反響している。

「遺跡の反応が君に向けられたということは、間違いなくお前の特異性が鍵だ。」
ユーゴが真剣な声でアリアに告げる。

「でしょ？私って特別なんだよ！」
アリアは無邪気に胸を張る。

「……それを軽く言われると不安になるな。」
ユーゴは短く息をつき、文献を指差した。

「この言葉、『選ばれし刃』が指すのは、ただの武器ではない可能性がある。おそらく、魔王との戦争時代に使用された何かだ。」

「戦争の時代の……？」
イアンが眉をひそめる。

「そうだ。この刃は、古代の王が『封印の剣』として扱っていたものに関連しているかもしれない。だが、詳しい場所までは記されていない。」

「場所が分からないんじゃ、探しようがないよね。」
アリアが苦笑いする。

「ただ、一つだけ手がかりがある。『選ばれし刃』に関する伝承は、遠く南の『黒の峡谷』で語り継がれているとされている。」

「黒の峡谷？」
イアンがその名前に反応した。

「ああ、あそこは危険な地域だ。魔物が多い上に、峡谷の奥に進むほど魔力が渦巻いている。普通の冒険者なら近づかない場所だ。」
ユーゴは険しい顔で言った。

「でも、そこに行けば手がかりが見つかるってこと？」
アリアが目を輝かせる。

「可能性はある。ただし、今回の冒険はこれまで以上に危険だ。軽率な行動は命取りになる。いいな、アリア。」

「分かってるって！ちゃんと気をつけるよ！」
彼女は笑顔で答えるが、その表情には少しの緊張も見える。

翌朝、アリアとイアンは黒の峡谷へ向けて出発の準備を整えた。剣を磨きながら、アリアはふとイアンに話しかける。

「ねえ、選ばれし刃って本当にそんなにすごいのかな？」

「確かに分かりません。ただ、遺跡や石碑が君に反応した以上、それが無意味なものではないことは確かです。」

「じゃあ、頑張って探さなきゃね！」

イアンは黙って頷いた。アリアの魔力ゼロが鍵となっていること、そして自分が彼女を守らなければならないという感覚が、少しずつ心に重く響いている。

「イアン？」
アリアが不思議そうに彼を覗き込む。

「……何でもありません。ただ、君の無鉄砲さがどこまで持つか、それだけが心配です。」

「心配しないで！ほら、私って結構丈夫だから！」
アリアは笑顔で言う。

イアンはふとその笑顔に目を奪われたが、すぐに視線を逸らす。

「行きましょう。目的地は遠い。」

二人は南へ向かい、旅を進める。黒の峡谷がその先に待っている――そして、選ばれし刃の謎が少しずつ明らかになっていく。