魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊

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6章 魔力異常

閑話 サンドイッチ

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朝の陽射しが心地よい街並みの中、アリアはギルドを飛び出して意気揚々と歩いていた。その後ろを、少し気怠げな表情のイアンが黙ってついていく。

「ねえ、今日は絶対に寄りたいお店があるんだよ!」
アリアが振り返りながら楽しそうに言う。

「何の話ですか?」
イアンが少しだけ眉をひそめる。

「決まってるじゃん!サンドイッチ屋さんだよ!冒険に行く前に、まずは美味しいご飯でエネルギー補給しなきゃ!」

「冒険者がピクニック感覚で出発する話など、聞いたことがありませんが。」
イアンは軽くため息をつきながらも、彼女を止める気はなかった。

「まあまあ、そう言わないで!ここね、本当に美味しいんだから!」

街の広場を抜けた先にある、小さなサンドイッチ屋。木製の看板には可愛らしいイラストとともに、「陽だまりサンドイッチ」と書かれている。

「ここ!見て、この雰囲気。いいでしょ?」
アリアが自慢げに胸を張る。

「……確かに、悪くない佇まいです。」
イアンが控えめに頷いた。

カウンターの奥から現れた店主は、陽気な中年男性だった。アリアを見るなり手を振る。

「おっ、アリアちゃんじゃないか!今日も元気そうだね!」

「もちろん!今日はね、この人にも食べさせたくて来たんだ!」
アリアが後ろのイアンを指差す。

「そりゃいい。初めてかい?なら定番のチキンサンドを勧めるよ。焼きたてのパンに香ばしいチキンが最高なんだ。」

「それください!あと、卵サンドもおまけでね!」
アリアが嬉しそうに注文すると、イアンは少し戸惑いながら財布を取り出そうとする。

「いやいや、今日は私のおごりだから!」
彼女が笑顔で断る。

「……仕方ありませんね。」
イアンはおとなしく引き下がった。

サンドイッチを受け取った二人は、街を抜けた先の小さな丘に向かった。朝露が残る草原に座り込み、アリアは袋を広げる。

「よし、ここで食べよう!こういうのって冒険の醍醐味じゃない?」

「……冒険者の醍醐味とは戦闘であって、食事ではありません。」
イアンが呆れたように答える。

「じゃあ食べてみてよ。それで文句が出るなら聞くけど!」
アリアが一つサンドイッチを渡す。

イアンは少し不本意そうにそれを受け取り、一口かじった。すると――。

「……。」
彼は驚いたように目を見開いた。

「どう?」
アリアがニヤリとしながら聞く。

「……想像していたよりも、遥かに美味しい。」
イアンが静かに言う。

「でしょ?だから言ったじゃん!」
アリアは満足そうに笑うと、自分の分も大きく頬張った。

パンの柔らかさ、チキンの香ばしさ、そして挟まれた野菜の新鮮な風味。シンプルながら完璧な調和を見せるその味は、イアンにとって少しだけ意外だった。

「君がこれを大事にしている理由が、分かる気がします。」

「いいでしょ?冒険も大事だけど、美味しいものを食べるのも大事!」

イアンはふっと息をつき、視線を遠くへ向けた。暖かな陽射しの中、アリアが笑顔でサンドイッチを食べる姿が、どこか穏やかな気持ちを生む。

(こうした時間も、悪くないかもしれない。)

彼はそう思いながら、もう一口サンドイッチを頬張った。

次に進むべき冒険は迫っている。だが、それまでの間、こうした一瞬の平穏もまた、二人の旅の一部だった。
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