魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊

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10章 旧王都

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森を抜け、荒れ地を越えた先に、旧王都の廃墟がその姿を現した。

かつての栄華を思わせる高い城壁はところどころ崩れ、無数の建物が朽ち果てている。周囲には草木一本生えておらず、薄暗い雲が空を覆っていた。

「ここが……旧王都か。」

アリアが剣を腰に収めたまま、辺りを見渡す。

「かつて魔族が栄えた中心地だ。だが、魔王が封印されて以降、魔力の浄化が進まず、このような荒廃した姿になった。」

イアンが冷静に説明する。

「何か嫌な感じがするね……空気が重いっていうか、肌がピリピリする。」

アリアが腕をさすりながらつぶやいた。

「魔力の残留だろう。ここでは常に警戒が必要だ。」

イアンが杖を握り直す。

二人は崩れかけた城門を越え、廃墟の中に足を踏み入れた。

瓦礫や崩れた柱が散乱する通りを進む中、アリアは何かの視線を感じていた。

「ねえイアン、誰かに見られてる気がするんだけど……。」

アリアが後ろを振り返る。

「気のせいではないだろう。この地に潜む魔族や魔物が、侵入者に気付いている可能性が高い。」

イアンが鋭い目つきで周囲を見回す。

「分かった。気をつけて進むよ。」

アリアが剣に手を掛けたまま、足音を静かにして歩き始める。


旧王都の中心部にたどり着くと、廃墟の中でも比較的状態の良い建物が目に入った。

その建物の入口には古びた金属の看板が掛かっており、魔族の文字で「鍛冶師工房」と書かれている。

「ここだね。剣の力を解放する場所ってのは。」

アリアが看板を見上げながら言う。

「間違いないだろう。この場所で何かしらの試練が待っているはずだ。」

イアンが慎重に答える。

二人が中に入ると、そこはまるで時間が止まったかのように古い道具や武器がそのまま残されていた。

中央には巨大な炉と作業台があり、その上には魔法陣が描かれている。

「すごい……これ、本当に昔のままなんだね。」

アリアが驚いた声を上げる。

「この工房自体が魔力によって守られているのかもしれない。この魔法陣がその証拠だ。」

イアンが魔法陣を観察しながら言った。

そのとき、突然炉が赤く光り始め、工房全体が揺れ出した。

「また来た!?」

アリアがすぐに剣を構える。

炉の中から黒い霧が溢れ出し、それが次第に一体の魔物の形を成していく。それは巨大な鎚を持った魔族の幻影だった。

「これは……鍛冶師の魂かもしれない。」

イアンがつぶやく。

「魂!?じゃあ、私たちが敵だと思われてるの?」

アリアが剣を握りしめる。

「おそらくこの剣を試そうとしているのだろう。君の覚悟を見極めるために。」

イアンが冷静に答える。


魔物が咆哮を上げ、大鎚を振り下ろしてきた。

アリアはその一撃をかわしながら剣を振り抜くが、相手の力が圧倒的で、一瞬の隙を突かれて後退を余儀なくされる。

「こいつ、強い……!」

アリアが息を切らしながら言う。

「私が援護する。その剣を信じろ。」

イアンが杖を構え、氷の槍を放つ。槍は魔物の動きを一瞬止めるが、その間にアリアが「選ばれし刃」を振り上げる。

剣が青白い光を放ち、魔物の体に深く刻み込まれる。しかし、その瞬間アリアはまた強烈な疲労感に襲われた。

「くっ……やっぱり……!」

アリアが膝をつきかける。

「アリア、無理をするな!私が魔物を引きつける!」

イアンが前に出て、魔物の注意を引きつけた。

「でも、私が倒さないと……!」

アリアは気力を振り絞り、立ち上がる。


魔物が最後の一撃を放とうとした瞬間、アリアの剣が眩い光を放ち始めた。

その光は魔物を圧倒し、工房全体を包み込むように広がっていく。

「これは……!」

イアンが驚きの声を上げる。

アリアは剣を握り直し、全力で振り下ろした。その一撃が魔物を貫き、黒い霧となって消え去った。

「やった……?」

アリアが剣を下ろしながら息を切らす。

工房は再び静寂を取り戻し、魔法陣がゆっくりと輝きを失っていった。

「剣が……応えたのか。」

イアンが静かに言った。

「これで第二段階に進めたのかな?」

アリアが剣を見つめる。

「おそらくそうだ。だが、その代償がどれほどのものか、君は理解しておくべきだ。」

イアンの声には警告の響きが込められていた。

アリアはその言葉を胸に刻みながら、剣を腰に収めた。
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