魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

10章 旧王都

③

鍛冶師の工房を後にした二人は、旧王都の広場へと戻ってきた。剣の第二段階を解放したアリアの手には、「選ばれし刃」が以前よりも力強い輝きを放っている。

その光はどこか暖かくも見えたが、どこか不気味な威圧感も伴っていた。

「これが第二段階の力……なんだか、前よりも剣が重く感じる。」

アリアが剣を腰に収めながらつぶやく。

「力が増した分、その負担も大きくなっているのだろう。この剣を使うことには、より慎重であるべきだ。」

イアンが杖を持ちながら、彼女の表情を注意深く観察する。

「分かってるよ。でも、これでまた一歩強くなれた気がする。次に魔物が来てもきっと大丈夫だよね！」

アリアは前向きに笑うが、その笑顔の裏に潜む疲労をイアンは見逃さなかった。

「無理はするな。今はまだ、剣の真の力を完全に理解していない。」

イアンの言葉は慎重で冷静だったが、その中にはどこか優しさが込められていた。

広場の中央で一息つくと、アリアが空を見上げた。

旧王都の空は薄暗く、青空の欠片さえも見えない。

「不思議だよね。この街、空気も冷たくて暗いけど、なんだか安心する場所な気がする。」

アリアが静かに言葉を紡ぐ。

「魔力に満ちた地だ。君の感覚は正しいかもしれない。だが、それは同時に危険でもある。」

イアンが周囲を警戒しながら答える。

「そうだね。なんだか、見えない敵が近くにいる気がする……。」

その瞬間、アリアは剣の柄に手をかけた。

気配が現れたのは、旧王都の廃墟の陰からだった。

低い唸り声が響き、二人の前に現れたのは三体の魔族だった。いずれも人型に近いが、爪や牙が異様に発達し、赤い瞳がぎらついている。

「やっぱり、まだここには魔族が残ってたんだね。」

アリアが剣を抜き、構える。

「気をつけろ。これまでの魔物とは違う。知能を持った敵だ。」

イアンが杖を握りしめ、すぐに戦闘の準備を整える。

三体の魔族が一斉に襲いかかってきた。

アリアは「選ばれし刃」を振り抜き、最初の一体を迎え撃つ。剣が光を放ち、魔族の爪を受け止め、その体を切り裂いた。

「この力……やっぱりすごい！」

アリアが歓声を上げるが、その瞬間、背後からもう一体の魔族が爪を振り上げて迫る。

「アリア、後ろだ！」

イアンが叫び、氷の魔法を放つ。魔族の動きを封じ、その隙にアリアが剣を振り返して切り裂いた。

「助かった！イアン、ありがとう！」

アリアが笑顔で振り返るが、その表情が一瞬曇る。

「でも……ちょっと体が重いかも。」

「剣を使いすぎている。無理をするな、ここは私が押さえる。」

イアンが前に出て、最後の一体を迎え撃った。杖を振るうたびに魔法陣が描かれ、氷の槍が魔族を貫いていく。

戦闘は数分で終わったが、アリアはその場に膝をつき、荒い息を吐いていた。

イアンがそばに寄り、静かに手を差し出す。

「大丈夫か？」

「うん……ちょっと疲れただけ。」

アリアは手を取って立ち上がるが、その手のひらが僅かに震えていることにイアンは気付いた。

「君は気づいていないかもしれないが、その剣の力が君を蝕み始めている。」

イアンの声にはいつになく強い警告の響きがあった。

「蝕んでる……？」

アリアが自分の手を見つめる。

「生命力を代償に力を得る。それが『選ばれし刃』だ。その影響が今、君に出始めている。」

「でも……これがないと私、みんなを守れないよ。」

アリアが小さな声で答える。

「守るべきは君自身だ。君が倒れれば、何も守れない。」

イアンの言葉に、アリアは一瞬だけ目を伏せた。

「……分かった。でも、もう少しだけ頑張らせて。」

彼女の声には決意と不安が混じっていた。

二人はそのまま旧王都をあとにし、街への帰路についた。

しかし、背後の廃墟からはまだ何かが二人を見つめているような気配があった。二人の知らぬ間に、剣を狙う新たな脅威が動き出していた――。






ステータス画面

アリア・マーウェラ

• レベル: 15
• 職業: 剣士（盾なし）
• 体力: 35
• 魔力: 0
• 力: 30
• 敏捷: 22
• 器用: 18
• 知力: 9
• 精神: 14

スキル一覧

• 剣の扱い Lv.6
• 投擲 Lv.1
• 身体強化 Lv.3
• 戦闘直感（パッシブ）
• 特別装備:
• 選ばれし刃（第二段階解放 / 魔力を断ち切る力 + 光属性の攻撃力強化 / 使用時に生命力を消耗）

イアン

• レベル: 16
• 職業: 魔法使い（呪術特化）
• 体力: 10
• 魔力: 47
• 力: 6
• 敏捷: 12
• 器用: 15
• 知力: 30
• 精神: 28

スキル一覧

• 氷結魔法 Lv.5
• 魔力制御 Lv.4
• 詠唱短縮 Lv.3
• 炎魔法付与 Lv.2
• 呪いの触（自動発動 / パッシブ）