魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊

文字の大きさ
42 / 200
10章 旧王都

しおりを挟む
宴の翌日、ギルドホールは静かだった。

昨夜の喧騒とは打って変わって、メンバーたちはそれぞれの任務や準備に戻り、アリアとイアンも自分たちの時間を過ごしていた。アリアはギルド裏庭で軽い体力トレーニングを続け、イアンは街にある魔術具の店を訪れ、新たな道具や素材を物色していた。

イアンは店のカウンターに並ぶ魔術具をじっと見つめていた。中でも目に留まったのは、結界を強化するための小型の魔法石だった。街を守るための防御力強化に使えそうだと考えた。

「これを使えば、万が一のときに少しでもアリアを守れるかもしれない……。」

イアンが独り言をつぶやくと、店主の老紳士が顔を上げた。

「そちらの魔法石は、制御が難しい代わりに高い効果を発揮します。熟練者なら使いこなせるでしょうが……。」

「問題ありません。」

イアンが即答したその瞬間、手に持っていた魔法石がわずかに震えた。

「……?」

イアンは眉をひそめた。手のひらに触れた魔法石から、嫌な熱を感じる。それは彼自身の魔力が暴走しそうになるときに似た感覚だった。

「……失礼します。」

イアンは静かに店を後にしたが、胸の内に不安が残った。

その頃、アリアはギルドのホールで鍛錬を終えた後、一息ついていた。

「ふぅ……やっぱり体を動かすと気分がスッキリするね。」

アリアは背伸びをしながら笑った。そのとき、ギルド長のユーゴが静かに近づいてきた。

「随分と調子が良さそうだな。だが、剣の負担が体に出始めていることを自覚しているか?」

ユーゴの言葉に、アリアは一瞬だけ表情を曇らせた。

「うん……確かに少し疲れやすくなってる気がする。でも、大丈夫。剣の力はちゃんと制御できてるよ。」

「そうか。だが、過信するな。その剣の力は使い手の命を削るものだ。今はまだ小さな影響でも、いずれ君自身を蝕むことになる。」

ユーゴの厳しい声に、アリアは深く頷いた。

「分かってる。だからもっと強くなって、この剣の力に負けないようにするよ。」

「君の覚悟を信じよう。だが、その覚悟が君の無茶につながらないことを祈る。」

ユーゴはそう言い残して去っていった。

夕方、イアンがギルドに戻ると、アリアが待っていた。

「おかえり!どこ行ってたの?」

「魔術具の店だ。防御結界を強化するための石を見ていた。」

「防御結界の強化?そんなの、イアンに任せるよ。絶対いいもの選べるでしょ!」

アリアの言葉に、イアンは静かに頷いたが、表情はどこか硬かった。

「アリア、君は自分の体調を過信しているように見える。」

「え?」

イアンの突然の言葉に、アリアは驚いた。

「剣の力に頼りすぎている。君がどれほど強くても、その代償を無視することはできない。」

「……分かってる。でも、イアンも無理しすぎじゃない?私を支えてばかりで疲れてない?」

アリアが心配そうに尋ねると、イアンはわずかに視線を逸らした。

「私は……平気だ。ただ、君を守るために最善を尽くす。それが私の役割だ。」

アリアはその答えに、どこか満足したように微笑んだ。

「そっか。じゃあお互い無理しないようにしようね。私ももう少し剣を使うとき気をつけるから!」

その言葉にイアンは小さく頷いたが、自分の中にある呪いの影響について、彼女に伝えることはできなかった。

夜、ギルドのホールには静けさが戻っていた。

イアンは一人で街の結界を見つめながら、深い溜息をついた。自分の中に眠る魔族の力と呪いが、次第に不安定になっていることを感じていた。

(もし呪いが制御できなくなったら……彼女を傷つけることになるかもしれない。)

その考えに苛まれながら、彼は杖を握りしめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

処理中です...