魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

11章 呪い

①

翌日の朝、アリアとイアンはギルドを出て、街の外にある小さな薬草畑を訪れていた。

アリアは塔での冒険で使い切った薬草を補充するために、ギルド仲間から畑の場所を教えてもらったのだ。薬草畑は穏やかな丘の上にあり、風が心地よく吹き抜けていた。

「うわ、すごい！本当に薬草がたくさん生えてる！」
アリアはしゃがみ込みながら目を輝かせた。

「この場所はギルドで管理している。街の結界を維持するためにも、薬草は重要な資源だ。」
イアンが冷静に説明しながらも、周囲を警戒していた。

「でも、こうやって自然の中でのんびりするのも悪くないね。なんだか、日常に戻った気がする。」
アリアが薬草を摘みながら笑った。

イアンはそれを見ながら、どこか安心したように小さく頷いた。

しかし、その穏やかな空気は長くは続かなかった。

突然、遠くの森から低い唸り声が響き、二人は一瞬で緊張感を取り戻した。

「……何か来る。」
イアンが杖を握りしめ、鋭い目つきで森を見つめた。

茂みの中から現れたのは、大型の魔獣だった。黒い毛並みと鋭い爪を持ち、赤い瞳がぎらついている。さらに、魔獣の背後には数体の小型の魔物も従えていた。

「また厄介なのが出たね……！でも、今の私なら！」
アリアが「選ばれし刃」を構え、魔獣に向けて突進しようとする。

「待て、アリア！一度に複数の敵は危険だ！」
イアンが声を上げたが、彼女は一瞬だけ振り返って笑った。

「大丈夫だって！イアンは後ろから援護して！」

アリアが最初の魔獣に斬りかかると、剣は再び青白い光を放ち、魔獣の体を深く切り裂いた。しかし、その瞬間、彼女はまた体に重い疲労感を覚えた。

（やっぱり、この剣……使うたびに体が重くなる……でも、ここで負けられない！）

アリアがもう一度剣を振ろうとしたその時、背後から別の魔物が襲いかかってきた。

「危ない！」
イアンが叫び、杖を振って氷の壁を作り出す。魔物は壁に阻まれたが、その瞬間、イアンの体が僅かに震えた。

（呪いが……また……！）

魔力を放つたびに、イアンの中に眠る魔族の血が活性化し始めていた。彼の瞳が一瞬だけ紅く染まり、手元が震え始める。

「イアン、大丈夫！？」
アリアが声をかけるが、イアンは答えられなかった。

杖を持つ手が勝手に動き、想定外の魔力が暴走を始める。氷の魔法が暴風のように周囲を巻き込み、アリアもその一部に巻き込まれそうになる。

「イアン、やめて！落ち着いて！」
アリアが声を張り上げる。

しかし、イアンの呪いは止まらない。彼の中の魔族の力が解放されかけているのだ。

「くっ……私は……！」
イアンは必死に自分を抑えようとするが、暴走する魔力は止まらない。氷の槍が次々と生成され、無差別に放たれる。

アリアはそれをかわしながら、必死にイアンに向かって走った。

「イアン、しっかりして！私を見て！」
アリアは彼に飛びつくようにして腕を掴んだ。

その瞬間、イアンの紅く染まった瞳がわずかに揺れた。

「アリア……？」

イアンが掠れた声でつぶやくと、暴走していた魔力が少しずつ収まっていく。

「そう、それでいい！戻ってきて！」
アリアが懸命に彼の顔を覗き込む。

数秒後、イアンの体から漏れ出していた魔力が完全に消え、彼はその場に崩れ落ちた。

「イアン、大丈夫！？しっかりして！」
アリアが慌てて彼の体を支える。

「……すまない。私はまた……。」
イアンが弱々しい声でつぶやいた。

「またって、何のこと？イアン、さっきの……あれは何だったの？」

アリアが真剣な顔で問いかけるが、イアンは答えられなかった。

「とにかく、街に戻ろう！休まないと！」

アリアはイアンを支えながら立ち上がり、街の方向へ向かって歩き始めた。