魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊

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11章 呪い

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街へ戻ったアリアとイアンは、その足でギルドを訪れた。イアンはまだ疲労の色が濃く、アリアが肩を貸している状態だった。

ギルドのホールでは、ユーゴがすでに二人を待っていた。その表情はいつになく厳しい。

「イアン、何があった?」

ユーゴが問うと、イアンは静かに椅子に腰を下ろし、短く答えた。

「呪いが……制御を失いかけた。」

その言葉に、ユーゴの眉が僅かに動いた。

「やはり、君の中に眠る魔族の力が問題を起こしているか。詳しく話を聞かせてもらおう。」

アリアは驚いた表情でイアンを見つめた。

「魔族の力……?イアン、それってどういうこと?」

イアンはしばらく沈黙していたが、やがて重い口調で語り始めた。

「私の母は……魔族だった。父は人間だ。二人の間に生まれた私は、その血を受け継いでいる。」

その言葉にアリアは目を見開いた。

「魔族……。でも、イアンは今まで普通に生活してたじゃない。それがどうして呪いに?」

「魔族の血を引く者には、時に制御できない力が宿ることがある。それは力でもあり、呪いでもある。」

イアンは自分の手を見つめながら続けた。

「私は魔力を使うたびに、その血が反応し、暴走の危険を孕む。普段は抑えているが、今日のように魔力を大量に使うと……。」

「じゃあ、さっきの魔力の嵐みたいなのは……全部、呪いのせい?」

アリアが少し不安げに尋ねると、イアンは静かに頷いた。

「そうだ。もし君がいなければ、私は自分の力を止められなかったかもしれない。」

「私が……?」

アリアは驚きながらも、少し照れくさそうに目を逸らした。

「でも、それなら良かった。イアンを助けられたなら。」

「君が私の暴走を止めた。君の存在が、私にとっての……安定を与えているのかもしれない。」

イアンの言葉に、アリアは少し赤くなりながら小さく頷いた。

ユーゴは二人のやり取りを黙って聞いていたが、やがて重々しく口を開いた。

「イアン、君の力は確かに危険だ。しかし、それを完全に抑え込む方法がないわけではない。」

「方法……?」

イアンがユーゴを見上げる。

「街の結界を司るこの地には、封印術の記録が残されている。それを応用すれば、君の呪いを一時的に抑える手段が見つかるかもしれない。」

「封印術……。」

「ただし、完全に解決するものではない。君が引き続き力を使えば、いずれ抑えきれなくなる危険は残る。」

その言葉にイアンは少し目を伏せたが、すぐに静かに頷いた。

「試してみる価値はある。アリアのためにも、私は制御を取り戻さなければならない。」

「分かった。それなら私も協力するよ!」

アリアが勢いよく手を挙げる。

「お前はもっと自分の疲労を気にしろ。剣の代償もまだ完全には明らかになっていないのだからな。」

ユーゴの冷静な声に、アリアは少しだけ肩をすくめた。

「そ、それは分かってるけど……でも、私だってイアンを助けたいし!」

「まったく、君たちは似た者同士だな。」

ユーゴが苦笑しながら答えると、ホールの空気が少し和らいだ。

その夜、アリアは自室で剣を手にしながら、今日の出来事を振り返っていた。

「イアンが魔族の血を引いてるなんて……全然気づかなかった。」

剣の刃が月明かりを反射し、微かに光る。彼女はその光を見つめながら、呟いた。

「でも、あの呪い……本当に怖かった。イアンがいつも抑えてるなんて、どれだけ辛いんだろう。」

彼女は剣をそっと脇に置き、窓の外に広がる夜空を見上げた。

「私がもっと強くならなきゃ。イアンを助けるためにも……。」

彼女の決意は、静かな夜風の中に溶け込んでいった。
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