魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊

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13章 賢者の塔

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塔の最奥部に現れた巨大な影は、低い唸り声を上げながら二人を見下ろしていた。その姿は漆黒の鎧に包まれ、背中には大剣を背負っている。その全身からは圧倒的な魔力が放たれ、周囲の空気が震えているのが分かった。

「なんだ、この圧力……!」

アリアが剣を握りしめ、顔を歪める。

「この存在……単なる敵ではない。奴は、この塔そのものを守る最終防衛機構かもしれない。」
イアンが冷静に分析する。

「最終防衛機構だろうと、やるしかないじゃん!」

アリアが剣を構えると、漆黒の騎士が一歩を踏み出した。その足音は地響きのように響き渡り、アリアとイアンの間に重々しい緊張が走る。

漆黒の騎士は背負っていた大剣を抜き、ゆっくりと構える。その刃先には闇の力がまとわりつき、異様な光を放っていた。

「アリア、まずは様子を探る。下手に近づくな!」

イアンが鋭い声で警告する。

「分かってるけど、こっちも先手を取らなきゃ!」

アリアが「選ばれし刃」を構え、一気に間合いを詰めた。彼女の剣が青白い光を放ちながら、漆黒の騎士の肩口を狙う。

しかし、その一撃は鋼の鎧に弾かれ、わずかに傷をつけただけだった。

「硬っ……!」

「アリア、下がれ!」

イアンが魔法陣を展開し、氷の槍を生成する。

「氷結の槍――放て!」

槍が騎士に向かって放たれるが、彼はそれを大剣で叩き落とし、微動だにしない。


「……来るぞ!」
イアンが叫ぶと同時に、漆黒の騎士が大剣を振り上げ、一気に二人に向かって振り下ろした。

その一撃は地面を割り、塔全体を揺らすほどの衝撃を生み出した。アリアはすんでのところで回避する。

「なんなの、この力……!?」

「このままでは埒が明かない。奴の弱点を探る必要がある。」
イアンが冷静に提案する。

「弱点ね……だったら、動きが鈍るまで何度でも叩き続けるしかないよ!」

アリアが再び剣を構え、騎士に突進する。

アリアの剣が騎士の鎧を再び斬りつけたその瞬間、「選ばれし刃」が眩い光を放ち始めた。

「この光……!」

剣が放つ力がさらに増大し、鎧をかすめた部分に深い亀裂を生じさせた。その亀裂からは黒い霧が漏れ、騎士の動きが僅かに鈍る。

「いける……この剣なら!」

アリアがさらに攻撃を続けようとしたとき、剣が微かに振動し、彼女の体に強い疲労感が押し寄せてきた。

「くっ……また……!」

剣を使うたびに削られる自分の命を実感し、アリアは一瞬だけ動きを止めた。

その隙に、騎士が大剣を振り上げ、アリアを狙って一気に振り下ろしてきた。

「アリア、危ない!」
イアンが叫び、彼女の前に飛び出す。

杖を掲げて魔法陣を展開し、氷の盾を生み出したものの、衝撃のあまり吹き飛ばされてしまう。

「イアン!」

アリアが駆け寄ると、イアンは辛うじて体を起こし、息を切らしながら言った。

「アリア、このままでは勝てない。だが、剣と私の魔力を完全に融合させれば……。」

「そんなことしたら、イアンに危険が及ぶんじゃないの!?」

「それでもやるしかない。この敵を倒すためには、私たち二人の力を合わせる必要がある。」

イアンの決意を聞き、アリアは僅かに迷ったが、すぐに頷いた。

「分かった……二人でやる!」

イアンが剣に手を触れ、自身の魔力を注ぎ込むと、「選ばれし刃」が青白い光から黄金の輝きへと変化した。

「今だ、アリア……この一撃で決めるんだ!」

「うん……これで終わりにする!」

アリアは剣を構え、全力で漆黒の騎士に向かって突進した。

騎士が最後の抵抗として大剣を振り下ろそうとするが、剣が放つ黄金の光がその動きを封じる。そして、「選ばれし刃」が騎士の心臓部を貫いた。

「これで……終わりだ!」

剣の力が騎士の体内で爆発し、彼の巨体が崩れ落ちる。その瞬間、塔全体が静寂に包まれた。

アリアは剣を地面に突き刺し、肩で息をする。イアンは彼女に歩み寄り、肩を支えた。

「君がいなければ、この戦いは勝てなかった。」

「イアンもね……本当にありがとう。」

二人は互いに微笑み合いながら、塔の最奥にある台座へと向かった。
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