魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊

文字の大きさ
58 / 200
13章 賢者の塔

しおりを挟む
塔の最奥部に現れた巨大な影は、低い唸り声を上げながら二人を見下ろしていた。その姿は漆黒の鎧に包まれ、背中には大剣を背負っている。その全身からは圧倒的な魔力が放たれ、周囲の空気が震えているのが分かった。

「なんだ、この圧力……!」

アリアが剣を握りしめ、顔を歪める。

「この存在……単なる敵ではない。奴は、この塔そのものを守る最終防衛機構かもしれない。」
イアンが冷静に分析する。

「最終防衛機構だろうと、やるしかないじゃん!」

アリアが剣を構えると、漆黒の騎士が一歩を踏み出した。その足音は地響きのように響き渡り、アリアとイアンの間に重々しい緊張が走る。

漆黒の騎士は背負っていた大剣を抜き、ゆっくりと構える。その刃先には闇の力がまとわりつき、異様な光を放っていた。

「アリア、まずは様子を探る。下手に近づくな!」

イアンが鋭い声で警告する。

「分かってるけど、こっちも先手を取らなきゃ!」

アリアが「選ばれし刃」を構え、一気に間合いを詰めた。彼女の剣が青白い光を放ちながら、漆黒の騎士の肩口を狙う。

しかし、その一撃は鋼の鎧に弾かれ、わずかに傷をつけただけだった。

「硬っ……!」

「アリア、下がれ!」

イアンが魔法陣を展開し、氷の槍を生成する。

「氷結の槍――放て!」

槍が騎士に向かって放たれるが、彼はそれを大剣で叩き落とし、微動だにしない。


「……来るぞ!」
イアンが叫ぶと同時に、漆黒の騎士が大剣を振り上げ、一気に二人に向かって振り下ろした。

その一撃は地面を割り、塔全体を揺らすほどの衝撃を生み出した。アリアはすんでのところで回避する。

「なんなの、この力……!?」

「このままでは埒が明かない。奴の弱点を探る必要がある。」
イアンが冷静に提案する。

「弱点ね……だったら、動きが鈍るまで何度でも叩き続けるしかないよ!」

アリアが再び剣を構え、騎士に突進する。

アリアの剣が騎士の鎧を再び斬りつけたその瞬間、「選ばれし刃」が眩い光を放ち始めた。

「この光……!」

剣が放つ力がさらに増大し、鎧をかすめた部分に深い亀裂を生じさせた。その亀裂からは黒い霧が漏れ、騎士の動きが僅かに鈍る。

「いける……この剣なら!」

アリアがさらに攻撃を続けようとしたとき、剣が微かに振動し、彼女の体に強い疲労感が押し寄せてきた。

「くっ……また……!」

剣を使うたびに削られる自分の命を実感し、アリアは一瞬だけ動きを止めた。

その隙に、騎士が大剣を振り上げ、アリアを狙って一気に振り下ろしてきた。

「アリア、危ない!」
イアンが叫び、彼女の前に飛び出す。

杖を掲げて魔法陣を展開し、氷の盾を生み出したものの、衝撃のあまり吹き飛ばされてしまう。

「イアン!」

アリアが駆け寄ると、イアンは辛うじて体を起こし、息を切らしながら言った。

「アリア、このままでは勝てない。だが、剣と私の魔力を完全に融合させれば……。」

「そんなことしたら、イアンに危険が及ぶんじゃないの!?」

「それでもやるしかない。この敵を倒すためには、私たち二人の力を合わせる必要がある。」

イアンの決意を聞き、アリアは僅かに迷ったが、すぐに頷いた。

「分かった……二人でやる!」

イアンが剣に手を触れ、自身の魔力を注ぎ込むと、「選ばれし刃」が青白い光から黄金の輝きへと変化した。

「今だ、アリア……この一撃で決めるんだ!」

「うん……これで終わりにする!」

アリアは剣を構え、全力で漆黒の騎士に向かって突進した。

騎士が最後の抵抗として大剣を振り下ろそうとするが、剣が放つ黄金の光がその動きを封じる。そして、「選ばれし刃」が騎士の心臓部を貫いた。

「これで……終わりだ!」

剣の力が騎士の体内で爆発し、彼の巨体が崩れ落ちる。その瞬間、塔全体が静寂に包まれた。

アリアは剣を地面に突き刺し、肩で息をする。イアンは彼女に歩み寄り、肩を支えた。

「君がいなければ、この戦いは勝てなかった。」

「イアンもね……本当にありがとう。」

二人は互いに微笑み合いながら、塔の最奥にある台座へと向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

【完結】異世界に召喚されたので、好き勝手に無双しようと思います。〜人や精霊を救う?いいえ、ついでに女神様も助けちゃおうと思います!〜

月城 蓮桜音
ファンタジー
仕事に日々全力を注ぎ、モフモフのぬいぐるみ達に癒されつつ、趣味の読書を生き甲斐にしていたハードワーカーの神木莉央は、過労死寸前に女神に頼まれて異世界へ。魔法のある世界に召喚された莉央は、魔力量の少なさから無能扱いされるが、持ち前のマイペースさと素直さで、王子と王子の幼馴染達に愛され無双して行く物語です。 ※この作品は、カクヨムでも掲載しています。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

処理中です...