魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊

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13章 賢者の塔

閑話 イアンの覚悟

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夜が更け、静けさが辺りを包む中、イアンは焚き火の前で一人、月明かりを見上げていた。

隣にはアリアが横になっている。戦いの疲れからか、いつも以上に静かで無防備な寝顔だった。

「君は、本当に無防備だな。」

イアンは小さく呟き、微かに笑みを浮かべた。しかし、その笑みはすぐに消え、表情は深い憂いに染まった。


自分の杖を手に取り、ゆっくりと眺める。イアンの指先は、魔族の呪いによる冷たい痕跡を感じていた。

「魔族として生まれ、呪われた体を持ちながらも、今ここにいるのは……」

彼の目がアリアに向けられる。

「君がいるからだ。けれど、その君が剣の代償で消えてしまうかもしれない……。」

自分でも言葉にするのが恐ろしかった。

アリアが「選ばれし刃」を握るたびに、彼女の魂が削られていくのを、近くで感じ取っていた。その削られた魂の一片がどれほど儚く、二度と戻らないものかも理解していた。

「君はそれを承知で進もうとしている……。守りたいもののために、自分を差し出す覚悟をしているんだ。」

しかし、イアンはその覚悟を受け入れられない自分に気づいていた。

「君がいない世界に、私が残されるなんて……」

彼の声は低く掠れ、胸に鋭い痛みが走る。

イアンは想像する。もしアリアが剣を使い果たし、命を落としてしまったらどうなるのか。

目の前には、笑顔を浮かべるアリアの幻影が浮かぶ。しかし、それは徐々に霞み、やがて消え去る。

そこに残されるのは、自分だけ。

「君のいない世界に何の意味がある?」

その瞬間、胸の奥から湧き上がる絶望に、彼は初めて呪いを持つ自分を憎んだ。彼自身の血が、剣と共鳴していることさえも憎かった。

「君を支える力が、結局は君を削る力になっている……。」

イアンの握りしめた拳が小刻みに震える。

焚き火の炎が揺らめき、その明かりが彼の横顔を照らす。

「だったら……」

イアンは自分に言い聞かせるように呟く。

「君がいなくなるくらいなら、私が代わりに逝く。それがどんな形でも。」

彼はゆっくりと立ち上がり、アリアの寝顔を見下ろした。

「君が剣にすべてを捧げるのなら、その代償は私が引き受ける。そうすれば、君が守りたいものを守れるだろう。」

イアンは静かに座り直し、再び焚き火を見つめる。

「君に直接言うつもりはない。だが、いざというときには迷わずそうする。私が、そう決めたんだから。」

焚き火の明かりが徐々に弱まる中、イアンは目を閉じ、深い息をついた。

アリアが目を覚ますと、イアンはすでに焚き火の片付けを終え、旅の準備を進めていた。

「おはよう、イアン!」

アリアが明るく声をかけると、イアンはいつも通り冷静な表情で振り向いた。

「朝の準備ができている。朝食を取ったらすぐ出発だ。」

「了解!今日もよろしくね!」

その言葉にイアンは小さく頷きながら、心の中で静かに呟いた。

(君の覚悟を見届ける。そして、君が道を誤らないように、私が最後まで支える。それが、私が選んだ道だ。)

イアンの目には決意の光が宿っていた。
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