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25章 王都周辺
⑤
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アリアとイアンは村での戦闘を終え、反乱勢力の痕跡を追うべく次の目的地へと向かっていた。空は少し曇り始め、森を抜ける道には静けさが漂っている。二人が緊張を保ちながら歩みを進めていると、不意に道の先に人影が現れた。
「また君に会えるなんて、これは運命だね。」
その声に、アリアはとっさに盾を構えた。イアンも杖を構え、前方の金髪の青年に目を細める。
「ルイス……また来たの?」
「『また』とは冷たい言い方だ。君に会うことを楽しみにしていたのに。」
ルイスは片手にレイピアを携えながら、柔らかな笑みを浮かべていた。その動きには一切の敵意が感じられない。しかし、アリアもイアンもその無防備な様子にかえって警戒心を強めた。
「何を企んでるの?」
アリアが問いかけると、ルイスは首を軽く傾げた。
「企む?僕が?いや、ただ君の強さを確かめたいだけだよ。それに……君と話をするのも悪くないと思ってね。」
「強さを確かめたいって、それ何度も言ってるけど、私たち迷惑してるんだけど。」
アリアが苦々しく返すと、ルイスは一瞬表情を曇らせた。
「迷惑か……それは少し心外だな。君がどれほどの価値を持つ存在か、分かっていないのは君自身だ。」
「僕には君が眩しすぎるんだよ、アリア。」
ルイスはゆっくりと近づきながら続けた。
「君の動きは読めない。君の力には意味がある。僕にはないものばかりだ。」
「ないもの……?」
アリアが戸惑うと、ルイスはふと空を見上げた。彼の目にはどこか遠い記憶を思い出しているような色が宿っている。
「僕は生まれてからずっと強いと言われてきた。でも、何が正しいのか、何が間違っているのかさえ分からなかった。人の気持ちも、喜びも……君が持っているものすべてが僕には遠いものだった。」
その言葉に、アリアは一瞬だけ盾を下げた。
「でも、僕には……セリーナがいた。」
突然の名前にアリアが息を呑む。その隣でイアンは微動だにせず、ルイスの動きを見つめていた。
「セリーナは……僕の妹だ。武闘貴族のテミスに生まれて、誰にも知られることなく消えた存在。病弱で、何もできなくて、きっと誰も彼女を認めなかっただろう。」
ルイスの言葉は淡々としていたが、その瞳の奥には苦しみが滲んでいた。
「でも、彼女は僕に教えてくれたんだ。人がどうやって笑うのか、どうやって泣くのか。僕がどんなにひどいことをしようとしても、彼女が『ダメ』と言えば、僕はそれをやめた。……あの頃の僕にとって、それだけが善悪の基準だった。」
「そんな……。」
アリアは言葉を失い、ただ彼を見つめていた。ルイスは一度だけ深く息を吐き、続けた。
「セリーナがいなくなってから、僕は分からなくなった。何をしても何も感じない。ただ剣を振るい、強い相手を探す。それが生きている実感を与えてくれる……君に会うまではね。」
「私に……?」
「君は読めないんだ、アリア。僕のすべての経験を無効化してしまう。それは僕にとって……奇跡なんだ。」
アリアはルイスの言葉に困惑しながらも、彼が抱える孤独を感じ取っていた。その横でイアンが口を開いた。
「それでも、彼女に執着するのは間違っている。アリアにはアリアの道がある。君の傷を彼女に押し付けるな。」
その言葉に、ルイスは微笑みを浮かべた。
「押し付けているつもりはない。ただ、僕は彼女がどこまで行けるのかを見たいだけだ。それを邪魔する気はないよ。」
「なら、もう私たちの前に現れないで。」
アリアが真っ直ぐな視線で言い放つと、ルイスは肩をすくめた。
「それは無理な相談だな。また会おう、アリア。」
そう言うと、彼は再び森の奥へと消えていった。
「また君に会えるなんて、これは運命だね。」
その声に、アリアはとっさに盾を構えた。イアンも杖を構え、前方の金髪の青年に目を細める。
「ルイス……また来たの?」
「『また』とは冷たい言い方だ。君に会うことを楽しみにしていたのに。」
ルイスは片手にレイピアを携えながら、柔らかな笑みを浮かべていた。その動きには一切の敵意が感じられない。しかし、アリアもイアンもその無防備な様子にかえって警戒心を強めた。
「何を企んでるの?」
アリアが問いかけると、ルイスは首を軽く傾げた。
「企む?僕が?いや、ただ君の強さを確かめたいだけだよ。それに……君と話をするのも悪くないと思ってね。」
「強さを確かめたいって、それ何度も言ってるけど、私たち迷惑してるんだけど。」
アリアが苦々しく返すと、ルイスは一瞬表情を曇らせた。
「迷惑か……それは少し心外だな。君がどれほどの価値を持つ存在か、分かっていないのは君自身だ。」
「僕には君が眩しすぎるんだよ、アリア。」
ルイスはゆっくりと近づきながら続けた。
「君の動きは読めない。君の力には意味がある。僕にはないものばかりだ。」
「ないもの……?」
アリアが戸惑うと、ルイスはふと空を見上げた。彼の目にはどこか遠い記憶を思い出しているような色が宿っている。
「僕は生まれてからずっと強いと言われてきた。でも、何が正しいのか、何が間違っているのかさえ分からなかった。人の気持ちも、喜びも……君が持っているものすべてが僕には遠いものだった。」
その言葉に、アリアは一瞬だけ盾を下げた。
「でも、僕には……セリーナがいた。」
突然の名前にアリアが息を呑む。その隣でイアンは微動だにせず、ルイスの動きを見つめていた。
「セリーナは……僕の妹だ。武闘貴族のテミスに生まれて、誰にも知られることなく消えた存在。病弱で、何もできなくて、きっと誰も彼女を認めなかっただろう。」
ルイスの言葉は淡々としていたが、その瞳の奥には苦しみが滲んでいた。
「でも、彼女は僕に教えてくれたんだ。人がどうやって笑うのか、どうやって泣くのか。僕がどんなにひどいことをしようとしても、彼女が『ダメ』と言えば、僕はそれをやめた。……あの頃の僕にとって、それだけが善悪の基準だった。」
「そんな……。」
アリアは言葉を失い、ただ彼を見つめていた。ルイスは一度だけ深く息を吐き、続けた。
「セリーナがいなくなってから、僕は分からなくなった。何をしても何も感じない。ただ剣を振るい、強い相手を探す。それが生きている実感を与えてくれる……君に会うまではね。」
「私に……?」
「君は読めないんだ、アリア。僕のすべての経験を無効化してしまう。それは僕にとって……奇跡なんだ。」
アリアはルイスの言葉に困惑しながらも、彼が抱える孤独を感じ取っていた。その横でイアンが口を開いた。
「それでも、彼女に執着するのは間違っている。アリアにはアリアの道がある。君の傷を彼女に押し付けるな。」
その言葉に、ルイスは微笑みを浮かべた。
「押し付けているつもりはない。ただ、僕は彼女がどこまで行けるのかを見たいだけだ。それを邪魔する気はないよ。」
「なら、もう私たちの前に現れないで。」
アリアが真っ直ぐな視線で言い放つと、ルイスは肩をすくめた。
「それは無理な相談だな。また会おう、アリア。」
そう言うと、彼は再び森の奥へと消えていった。
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