魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

27章 事件の黒幕

⑥

ギルドの訓練場は、朝の光が差し込む中で静かな空気に包まれていた。その空間で、アリアとルイスが向かい合って立つ。ルイスはいつもの飄々とした表情ではなく、真剣な目つきでアリアを見つめていた。

「さて、今日は君の剣術に少し手を貸してみようと思う。盾を持つようになったのなら、その動きに合わせて剣術も変える必要があるからね。」

「よろしくお願いするよ、ルイス先生！」

アリアが冗談めかして笑うと、ルイスは少しだけ笑みを浮かべながらレイピアを抜いた。

「剣術に性格が表れると言うが、君の戦い方は実に素直で力強い。けれど、もっと効率よく動けば、体力の消耗を抑えられるはずだ。」

「効率よく、ね……分かった、やってみる！」

ルイスが軽く動き始めると、アリアも剣と盾を構えて間合いを詰めた。ルイスはレイピアを素早く動かし、アリアの剣を軽く受け流す。

「まずは足さばきだ。力強さはそのままに、無駄な動きを減らす。こうだ。」

ルイスが軽やかに一歩踏み出しながら、アリアの脇を突くようにレイピアを向ける。その動きにアリアは驚きつつも、盾で受け止めた。

「なるほど、こういう感じか……でもこれ、ルイスみたいに速く動けないと難しいよ！」

「速さよりも、正確さだよ。動きを読みながら、相手の力を利用する。それが剣士の基本だ。」

ルイスの言葉に、アリアは必死に動きを真似しようとする。剣を振るたびにルイスが冷静に動きを指摘し、その都度アリアの動きが変わっていく。

訓練場の隅では、イアンとユーゴがその様子を静かに見守っていた。イアンが杖を握りながら呟く。

「ルイスがあそこまで丁寧に教えるなんて珍しいな。君が彼をよく知っているなら、あれがどれほど特別なことか分かるはずだ。」

ユーゴは軽く頷きながら答えた。

「確かに珍しいことだろう。ルイス・テミスは対人剣術の天才だ。しかし、他人にそれを教えるのは得意ではないはずだ。」

イアンはアリアを見つめながら、少しだけ口元を緩めた。

「それでも、アリアが彼にとって特別な存在だということだろう。」

ユーゴはその言葉に深く頷いた。

「彼女は“特別”という言葉だけでは表せない存在だ。剣士としても、そして仲間としても成長し続けている。」

稽古が続く中、アリアの動きが徐々に変わり始めた。ルイスが軽く突きを繰り出すと、アリアは盾を的確に動かし、その隙を突いて剣を振り下ろした。

「いいぞ、その調子だ！」

ルイスが軽く笑みを浮かべた瞬間、アリアの剣が彼のレイピアを弾いた。アリアは思わず嬉しそうに叫ぶ。

「やった！ルイス、今の動き、どうだった？」

「素晴らしい。だが、油断しないことだ。」

その言葉と同時にルイスが剣を構え直し、アリアに再び向かってきた。二人の間で剣の音が響き渡り、そのたびにアリアの動きが洗練されていく。

二人が剣を収めたとき、アリアは息を切らしながら笑った。

「こんなに動いたの、久しぶりかも……でも、ちょっと分かった気がする！」

「それはよかった。君の剣術にはまだまだ伸びしろがある。次はもっと複雑な技を教えてみよう。」
ルイスが満足そうに微笑むと、イアンが静かに近づいてきた。

「アリア、いい動きだった。盾を持つことにだいぶ慣れてきたようだな。」

「ありがと、イアン！でも、まだまだルイスには全然かなわないよ。」

「それは当たり前さ。」
ルイスが笑いながら言葉を続けた。

「君が僕に勝つのは、あと数年はかかるだろうね。」

「もう、そんなこと言わないでよ！」

アリアが笑いながら剣を軽く振ると、訓練場に和やかな空気が流れた。