魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊

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31章 アトリスの廃城

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扉の奥、祭壇の中央でイアンが手にした古い書物。そこに刻まれた魔族の紋章を見つめ、彼の表情は険しくなる。

「これが……ヴァリオスの狙い?」

イアンが呟いたその瞬間、空間全体が震え、低い声が広間に響いた。

「その通りだ。弟よ――いや、半端者と言うべきか。」

霧の中から姿を現したのは、黒いローブに身を包んだヴァリオスだった。その姿は、イアンとどこか似通った雰囲気をまといながらも、冷徹な目が光っている。

「ヴァリオス……!」

ルイスが剣を抜き、即座に構えを取る。アリアも盾を構え直し、剣を握りしめた。

「ずいぶんと愚かな真似をしてくれたな、弟よ。だが、その書物を渡してもらえれば見逃してやってもいい。」

ヴァリオスの声には揺るぎない自信が込められていた。しかし、イアンはその提案に動じることなく冷たい瞳を向ける。

「お前が何を企んでいるかは知らないが、この書物は渡さない。お前がそれを必要としている以上、ここで終わらせる。」

「終わらせる? お前が?」

ヴァリオスは嘲笑を浮かべ、指を一振りすると、空間全体が魔力で満ち始めた。広間の隅から次々と魔物が出現し、三人を囲むように配置される。

「お前たちに選択肢はない。だが――少し遊んでやろう。」

最初に動いたのはルイスだった。雷の剣を振りかざし、魔物の群れに突撃する。その刃が一閃すると、雷光が広がり、数体の魔物が一瞬で焼き払われた。

「次は私が行く!」

アリアが続き、盾で魔物の攻撃を受け流しながら剣を振り下ろす。鋭い一撃で魔物の頭部を貫き、次々と敵を倒していく。

「二人とも油断するな。あれは……まだ本気じゃない。」

イアンが冷静に声をかけ、杖を振るう。その動きに呼応するように、広間全体に氷の槍が出現し、一斉に魔物たちを貫いた。

「ほう、少しはやるようだな。」

ヴァリオスが微笑みながら指を鳴らすと、魔力がさらに強まり、先ほどよりも巨大な魔物が現れた。

ヴァリオスの標的:アリアへの攻撃

戦闘が激化する中、ヴァリオスは冷たい目でアリアを見据え、嘲笑を浮かべた。

「半端者を惑わす女……お前がいるから、奴は人間側に引き込まれているのだな。」

その言葉とともに、ヴァリオスが強力な魔力を纏った槍を放つ。鋭い魔力の奔流がアリアを襲う。

「危ない!」

イアンが即座に反応し、氷の壁を展開してアリアを守る。その壁が砕け散ると同時に、イアンはアリアの元へ駆け寄った。

「大丈夫か?」

「う、うん。ありがとう、イアン。」

アリアが息を整えながら答えると、イアンは険しい表情でヴァリオスを睨みつけた。

「お前の相手は俺だ。アリアには指一本触れさせない。」

その言葉に、ヴァリオスの目が僅かに細まる。

「ほう……お前がそのような感情を抱くとはな。ますます面白い。」

「アリア、ルイス! あいつを抑える。」

イアンの指示に、ルイスが即座に動き、雷の刃を振り上げてヴァリオスに突撃する。その剣が魔力障壁に阻まれた瞬間、アリアが横から飛び込む。

「隙を作るよ!」

アリアの一撃が魔力障壁に微かな亀裂を走らせる。それを見たイアンが、氷の槍をさらに強化し、亀裂に向けて放った。

「崩れた!」

障壁が砕け、ヴァリオスが一瞬だけ防御を失った。その隙を突いて、三人は一斉に攻撃を仕掛ける。

激しい攻防の末、ヴァリオスは深い傷を負いながらも冷笑を浮かべた。

「これで終わりだと思うなよ……弟よ。次に会う時、お前たちは後悔することになる。」

そう言い残し、ヴァリオスの姿が黒い霧に包まれて消えた。

「……逃げたか。」

ルイスが剣を収めながら息を吐く。アリアも剣を下ろし、肩で息をしながらイアンを見た。

「……イアン、大丈夫?」

「無事だ。お前こそ無茶をし過ぎだ。」

イアンの言葉に、アリアは微かに笑いながら答えた。

「だって、みんなを守りたかったから。」

その言葉に、イアンは少しだけ目を伏せた。

「……お前が無事でよかった。」
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