魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊

文字の大きさ
185 / 200
33章 光と影の交わる地

しおりを挟む
翌日、アリアたちは鍵を持ってユーゴのもとを訪れていた。ローデンのギルド奥にあるユーゴの私室は、いつものように本と魔法具で溢れている。

「ふむ……この鍵、かなり興味深い物だな。」

鍵を手に取ったユーゴが低く唸りながら言う。その顔には珍しく緊張感が漂っていた。

「どういう意味ですか?」

イアンが静かに訊ねると、ユーゴは鍵を指で回しながら答えた。

「この鍵そのものには魔力はほとんど宿っていない。だが、それが示す先――つまり、次の目的地に非常に強力な結界が存在する可能性が高い。」

「結界……それを解くには、またこの鍵が必要ってこと?」

アリアが首を傾げると、ユーゴは小さく頷いた。

「その通りだ。だが、結界を解くだけではなく、そこに潜む敵も問題だ。この鍵を作り出した存在が仕掛けた罠や守護者がいると考えるべきだろう。」

「また厄介そうね……。」

アリアがため息をつくと、ルイスが肩をすくめて軽く笑った。

「厄介なのはいつものことだろう。だが、結界の力を見れば、どれほど重要な場所かが分かる。」

「お前、意外と楽観的だよね。」

アリアがルイスを睨むように言うと、彼は軽く手を挙げて謝るような仕草を見せた。

「まあ、そういう役割だからな。俺が悲観的になったら、お前らもっと不安になるだろ?」

その言葉に、アリアは少しだけ笑った。

ユーゴが鍵を持ちながら巻物を広げる。そこには、古代文字で記された座標が記されていた。

「次の場所は……『アトラスの廃城』」

「また?」

アリアが驚いた声を上げる。ユーゴは頷きながら説明を続けた。

「アトラスの廃城の下には、かつて古代文明が築いた迷宮がある。」

「つまり、また魔物がいっぱいいる場所ってことね……。」

アリアが肩を落とすと、イアンが静かに補足した。

「魔物だけでなく、結界を守る存在もいるだろう。準備を整えてから向かうべきだ。」

「その準備に時間を割く価値がある場所だな。アトラスの廃城には、ヴァリオスの次の目的が隠されている可能性が高い。」

ユーゴが重々しい声で言い切る。その言葉に、三人は黙って頷いた。

ギルドを出た後、三人はそれぞれの役割を確認しながら旅の準備を進めていた。

「結界をどう突破するかだな……今回は俺の魔力だけでは足りないかもしれない。」

イアンが静かに呟くと、ルイスが軽く笑った。

「結界の突破はお前たちに任せるさ。その間、俺が周囲の敵を片付ける。」

「頼もしいね。でも、ちゃんと私も戦うからね。」

アリアが元気よく言うと、ルイスが少し意外そうな顔をした。

「お前、最近なんか変わったな。」

「え、そう?」

アリアが首を傾げると、ルイスは軽く肩をすくめた。

「以前よりも落ち着いたというか、戦い方に迷いがなくなった感じがする。」

その言葉に、アリアは一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに笑顔を浮かべた。

「それ、イアンのおかげだと思う。」

「俺の?」

イアンが少し驚いたように言うと、アリアは真剣な顔で頷いた。

「イアンがいつも冷静に見てくれるから、安心して動けるんだよ。それに、さっきのことだって……その、ありがとう。」

アリアが少し照れたように目を逸らすと、イアンは一瞬だけ目を見開き、やがて小さく微笑んだ。

「……お前が俺を信じてくれるから、俺も動けるんだ。」

その言葉に、アリアは嬉しそうに笑い、ルイスはわざとらしく咳払いをした。

「お前ら、いい雰囲気だな。俺の前でいちゃつくなよ。」

「い、いちゃついてないから!」

アリアが慌てて否定し、イアンは少しだけ視線を逸らした。

その夜、三人は新しい拠点の家で最後の準備を整え、翌日の早朝に出発することを決めた。朝の光が差し込む中、三人は再び新たな目的地「アトラスの廃城」へと旅立つ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

処理中です...