魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊

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33章 光と影の交わる地

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洞窟からの帰還後、三人は疲れ切った体を引きずるようにして拠点に戻った。ローデンの家で一息つき、夕食を済ませた後、アリアとイアンは外に出て庭のベンチに腰掛けていた。月明かりが二人を優しく照らしている。

「今回も、なんとか無事に帰ってこれたね。」

アリアが静かに呟く。イアンは隣で頷きながら、杖に手をついて座っていた。

「だが、あの洞窟で無茶をしたのは事実だ。お前の行動に助けられた部分もあるが、もっと慎重にすべきだった。」

その言葉に、アリアは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに眉をひそめた。

「……またそれ?」

「またそれ、とは?」

イアンが静かに訊き返すと、アリアは膝の上で拳を握りしめながら言葉を続けた。

「いつもイアンは『役割』とか『責任』とかって言うけど……私はそんなのどうでもいいんだよ!」

「どうでも……?」

「だって、イアンが無事でいてくれることが、一番大事なんだから!」

アリアの声が震えていた。それを聞いて、イアンは目を見開き、言葉を失ったように彼女を見つめた。アリアは続ける。

「私がイアンに助けられるのは嬉しいよ。でも、もしそのせいでイアンが傷ついたり、いなくなったりしたら……そんなの、絶対に嫌なの!」

彼女の言葉はまっすぐだった。その瞳には、怒りとともに涙が浮かんでいる。

「だから、役割とか責任とか……そんな難しいことを考えないで! イアン自身が大切なんだよ!」

イアンはしばらく黙ったまま彼女を見ていたが、やがてゆっくりと視線を落とし、小さく息を吐いた。

「……俺の存在が、お前にとってそんなに重要だとは思わなかった。」

「どうして分からないの! こんなに言ってるのに!」

アリアが拳で膝を叩く。その勢いに、イアンは思わず小さく笑みを漏らした。

「すまない……お前がそんなふうに怒るとは思わなかったから。」

「……もう、笑うなんてずるい。」

アリアが拗ねたように顔を逸らすと、イアンは少しだけ表情を柔らかくして言った。

「お前の言葉、ちゃんと伝わった。これからは……無理をしないようにする。」

「本当に?」

「……お前に約束しよう。」

その言葉に、アリアはようやく少しだけ微笑んだ。


しばらくの間、二人は月明かりの下で静かに座っていた。夜風が木々を揺らし、静かな音が響く。

「イアン、ありがとう。これからも、ずっと一緒にいてね。」

アリアがぽつりと呟いた。その言葉に、イアンは目を閉じて静かに頷いた。

「……ああ、約束しよう。」

その誓いは、月明かりの下で静かに交わされた。二人の絆は、これまで以上に深まっていく。
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