魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊

文字の大きさ
193 / 200
35章 アーカナ遺跡

しおりを挟む
第二層を突破し、三人がたどり着いたのは広大な空間だった。高い天井には光を反射する水晶が埋め込まれ、薄暗い中に不気味な輝きを放っている。石畳の床には古い傷跡が無数に刻まれ、ここがかつて戦場だったことを物語っていた。

「……嫌な気配がする。」

アリアが剣を構えながら前を見据える。その目の先には、大きな玉座のような石の台座があり、その上に一人の男が立っていた。

「ようやく来たか。さすがはヴァリオス様が目をつけた相手だ。」

男の声は低く、どこか嘲笑を含んでいる。その姿は黒い鎧に包まれ、手には禍々しい長槍を持っていた。目は赤く輝き、魔族であることを隠そうともしていない。

「ヴァリオスの部下か……!」

イアンが杖を握り締めながら低く唸る。

「ご名答。そして、この場所に足を踏み入れた以上、ここで終わってもらう。」

男が槍を構えると同時に、周囲の空気がピリピリと震え始めた。足元から黒い靄が立ち上り、それが次第に形を成して魔物へと変わっていく。



魔物が低い唸り声を上げながら三人に向かって突進してきた。

「数が多い! イアン、どうする?」

アリアが振り返ると、イアンは即座に指示を出した。

「まずは奴らの動きを封じる! 俺が左側を塞ぐ、ルイスは右を頼む!」

イアンが杖を振ると、地面から土壁がせり上がり、魔物の動きを封じた。その隙にルイスが剣を振り抜き、雷の斬撃で右側の魔物を一掃する。

「こいつら、数だけは多いが大したことはない!」

ルイスが笑いながら言うが、その直後、黒鎧の男が動き出した。

「ふん、下等な魔物が相手では物足りないか。ならば、私が直々に相手をしてやろう。」

彼が長槍を振ると、空気が切り裂かれたような音が響き、強烈な衝撃波が三人を襲った。

「くっ……!」

アリアが盾を構えて衝撃を受け止めるが、勢いに押されて後退する。

「アリア!」

イアンが土の壁を作って追加の衝撃波を防ぐが、黒鎧の男は構わず迫ってくる。



「近づけさせるもんか!」

アリアが地を蹴り、男に向かって突進する。片手剣を振り抜き、男の鎧に叩きつけるが、その瞬間、剣が弾かれた。

「何……?」

「私の鎧は魔力障壁によって守られている。お前のような凡人の攻撃が通用すると思うか?」

男が再び槍を振り上げる。しかし、その瞬間、彼の足元に鋭い氷の棘が突き出した。

「足元が疎かだな。」

イアンが冷静に呟きながら、次々と氷魔法で男の動きを封じる。彼の動きが鈍った隙に、アリアが再び剣を振り上げた。

「これなら……どう?」

アリアの剣が男の障壁を貫通し、その肩に深く食い込む。男が低い唸り声を上げた。

「……魔力がない? なるほど、それで私の障壁を突破したのか。」

男の目がアリアを鋭く見据える。その視線には、彼女に対する本気の敵意が宿っていた。



「ならば、俺の番だな。」

ルイスが剣を構え、全身に雷の魔力を纏わせた。彼が力を込めると、周囲の空気がビリビリと震え始める。

「この一撃で終わりにしてやる!」

ルイスが剣を振り抜くと、雷の刃が男を包み込んだ。雷光が爆発し、男が苦しげに呻く。

「これで……終わりだ。」

ルイスが剣を収めると、男の体は崩れ落ちた。しかし、その口元には不気味な笑みが浮かんでいた。

「ふん……この程度か。だが、ヴァリオス様にはお前たちの情報を届けておこう。」

そう言い残し、男の体が霧散して消えた。



戦闘が終わり、三人は息を整えながら互いの無事を確認した。

「なんとか……乗り越えたね。」

アリアが剣を収めながら言うと、イアンが小さく頷いた。

「ああ。だが、奴の言葉が気になる。ヴァリオスに情報が渡ったとなれば、次はさらに厳しい戦いになるだろう。」

「それでも進むしかないさ。」

ルイスが肩をすくめて言う。その目には、覚悟の光が宿っていた。

「そうだね。私たちなら、きっと乗り越えられる。」

アリアの言葉に、イアンも小さく微笑んで答えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

処理中です...