魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊

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35章 アーカナ遺跡

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第一層を突破してからしばらく進むと、遺跡内部の雰囲気が徐々に変わり始めた。冷たい空気がさらにひんやりとし、どこからか低い風の音が響いてくる。それはまるで、遺跡そのものが囁いているようだった。

「……なんか、嫌な感じがするね。」

アリアが立ち止まり、辺りを見回す。壁に刻まれた古代文字はこれまでよりも緻密で、どこか生きているような動きを感じさせる。

「空気が変わった。気をつけろ、ここからは魔法だけじゃなく、精神に作用する罠が仕掛けられている可能性が高い。」

イアンが警戒を呼びかける。その声に、ルイスも剣を握り直した。

「心理戦か……厄介だな。俺たちが迷いでも見せれば、遺跡の術中にハマる可能性がある。」

三人は慎重に進みながら、遺跡の奥へと足を踏み入れた。すると、次の瞬間、通路の先から光が放たれた。

「眩しいっ……!」

アリアが目を覆うと、光が徐々に形を変え、一つの空間を作り出していく。それは彼女の幼い頃の記憶を模したような光景だった。



目の前には、一軒の家があった。それは間違いなく、彼女の両親が生きていた頃の家だった。懐かしい声が聞こえてくる。優しく微笑む母、力強く剣を振る父。そして、まだ幼かった自分がその姿を見つめている。

「これは……夢?」

アリアが近づこうとすると、母親が振り返った。その顔は優しい笑みを浮かべているが、言葉は冷たかった。

「あなたはまだ弱い。私たちがいなくなっても、一人で何もできない。」

「そんなこと……ない!」

アリアは剣を握り締め、必死に否定する。しかし、目の前の幻影は淡々と言葉を続けた。

「本当にそうかしら? これまでだって仲間に助けられなければ、何もできなかったのでは?」

その言葉に、アリアは胸が締め付けられるような痛みを感じた。両親を失ったあの日から、自分がずっと無力であることを恐れてきた。だが、それでも彼女は顔を上げる。

「確かに私は一人じゃ何もできなかった。でも、仲間がいる。イアンも、ルイスも、みんなが私を支えてくれる。」

剣を振りかざした瞬間、幻影は砕け散り、空間が元の通路に戻った。アリアは息を整えながら、手にした剣を見つめた。

「……もう、自分を疑うのはやめよう。私は強くなれる。」



一方、イアンが立っていた場所も、いつの間にか別の光景に変わっていた。それは彼が幼い頃に住んでいた村の景色だった。しかし、周囲には誰もいない。空は灰色に染まり、冷たい風が吹き荒れている。

「……また、この夢か。」

イアンは呟き、周囲を見回した。その時、彼の前に一人の少年が現れる。少年は幼いイアンそのものだった。

「お前はずっと一人だったね。誰もお前に触れることができないし、誰もお前を愛さなかった。」

少年が冷たく笑う。その言葉は鋭い刃のようにイアンの胸を刺した。

「それでも……今は違う。」

イアンは目を伏せながら静かに言葉を続けた。

「アリアがいる。彼女だけは俺を恐れず、触れてくれる。俺に居場所をくれたんだ。」

その瞬間、少年の姿が崩れ、消え去った。灰色の空が
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