198 / 200
36章 セイントリヴァー
③
しおりを挟む
次の結界を越えた瞬間、三人は息を呑んだ。
そこに広がっていたのは、まるで別世界のような光景だった。高い天井には無数の光の粒が漂い、それらがまばゆい白い柱を優しく照らしている。磨かれた石畳には、繊細な紋様が浮かび上がり、透明な水が小川のように流れていた。空間全体からは厳かで温かい光が放たれている。
「……綺麗……。」
アリアが足を止め、感嘆の声を漏らした。剣を持つ手が自然と緩み、彼女の表情は驚きと感動に満ちている。
「確かに見惚れるほどの景色だな。だが、この静けさが逆に不気味だ。」
ルイスが眉をひそめながら周囲を警戒する。普段の軽口は影を潜め、その目には緊張が宿っていた。
イアンは、二人と少し距離を取りながら静かに歩いていた。杖を握る手は強張り、足元がふらついている。
「イアン、大丈夫?」
アリアが振り返ると、イアンは額に手を当て、小さく息を吐いていた。その顔は青ざめ、いつも冷静な彼の様子とは明らかに違っている。
「……平気だ。ただ……ここは……神聖魔法の力が濃すぎる。」
その言葉にアリアの眉が曇る。
「少し休んだ方がいいよ。無理しないで。」
「……いや、大丈夫だ。ここで立ち止まるわけにはいかない。」
そう言いながらも、イアンの声はどこか苦しげだった。
ルイスが剣を肩に乗せ、軽くため息をつく。
「お前、いつも一人で背負いすぎだ。俺たちがいるんだから、少しは頼れ。」
その言葉にイアンは小さく笑みを浮かべた。
「……分かってる。でも、この場所では……俺が試される気がするんだ。」
「試される?」
アリアが問い返すと、イアンはふとアリアを見つめた。
「もし、俺が迷ったり……倒れたりしたときは……お前が支えてくれ。」
イアンのその言葉に、アリアの心臓が一瞬早く跳ねた。視線を外し、ぎこちなく頷く。
「……もちろんだよ。私たち、仲間なんだから。」
イアンは微かに頷くと、再び前を向いて歩き始めた。その後ろ姿を見つめながら、アリアはそっと自分の手を握りしめた。
奥へと進むと、巨大な光の球体が浮かぶ祭壇が現れた。
その光は柔らかく、空間全体を包み込むように広がっているが、どこか威圧感を伴っていた。球体の表面には複雑な模様が流れるように刻まれ、そこから放たれる力が空間を震わせている。
「……これが、試練の場か。」
イアンが立ち止まり、杖を強く握りしめた。
「イアン……。」
アリアが心配そうに声をかけようとしたが、イアンは手を挙げてそれを制した。
「ここで試されるのは、きっと俺だ。魔族の血を引く俺が、この神聖な力に触れなければならない。」
「でも、無茶はしないで! もし危なくなったら、すぐに言ってね。」
アリアの言葉に、イアンは一瞬目を伏せた。そして、振り返ると少し微笑む。
「お前がそう言うなら……俺も倒れるわけにはいかないな。」
アリアの頬が赤く染まるのを見て、ルイスが軽く咳払いをした。
「よし、いい雰囲気はそこまでだ。イアン、もしヤバそうなら俺たちが何とかする。お前はお前で全力を出せ。」
「……分かった。行く。」
イアンが祭壇に近づくと、光の球体が強く輝き始めた。
光が収まると、そこにはイアンと瓜二つの姿が立っていた。
髪も目も杖を握る仕草も同じだが、その目には冷たい光が宿っている。彼は静かに口を開いた。
「お前は何者だ?」
その問いに、イアンは眉をひそめる。
「……俺自身にそんなことを聞かれるとはな。」
「お前は魔族の血を呪い、孤独を選んだ。それが本当の姿だろう?」
光のイアンは、さらに冷たい声で続けた。
「なぜ人間の世界に関わろうとする? その血が、彼らにとって異物だということは分かっているはずだ。」
その言葉に、イアンは唇を噛む。
「確かに……俺は人間の世界で異物だ。だが、俺を信じてくれる奴がいる。俺を……必要としてくれる奴が……。」
イアンがそう言いかけたとき、ふと目の端にアリアの姿が浮かんだ。光の壁越しに、彼女は真剣な目でイアンを見つめている。
「イアン、あなただけで戦わないで! 私もいるよ!」
その声に、イアンの心が揺れた。
「……俺は、一人じゃない。アリアが、ルイスが……俺を信じてくれるなら……!」
イアンが杖を振り上げると、冷たい氷が光のイアンを包み込み、空間が震えた。
「迷いを越えたか……進むがいい。」
光のイアンは微笑むと、消え去った。
光が収まり、イアンが静かに祭壇の前に膝をついた。
「……終わったのか……。」
アリアとルイスが駆け寄る。
「イアン!」
アリアが思わずイアンの手を握りしめた。その手の温かさに、イアンは驚いたように顔を上げる。
「……ありがとう、アリア。」
アリアも気まずそうに手を離し、視線をそらした。
「べ、別に……仲間だから当然でしょ!」
ルイスが苦笑しながら立ち上がるイアンを支える。
「これで準備は整ったな。次は、ヴァリオスの番だ。」
三人は互いに頷き合い、聖域の奥へと歩き出した。
そこに広がっていたのは、まるで別世界のような光景だった。高い天井には無数の光の粒が漂い、それらがまばゆい白い柱を優しく照らしている。磨かれた石畳には、繊細な紋様が浮かび上がり、透明な水が小川のように流れていた。空間全体からは厳かで温かい光が放たれている。
「……綺麗……。」
アリアが足を止め、感嘆の声を漏らした。剣を持つ手が自然と緩み、彼女の表情は驚きと感動に満ちている。
「確かに見惚れるほどの景色だな。だが、この静けさが逆に不気味だ。」
ルイスが眉をひそめながら周囲を警戒する。普段の軽口は影を潜め、その目には緊張が宿っていた。
イアンは、二人と少し距離を取りながら静かに歩いていた。杖を握る手は強張り、足元がふらついている。
「イアン、大丈夫?」
アリアが振り返ると、イアンは額に手を当て、小さく息を吐いていた。その顔は青ざめ、いつも冷静な彼の様子とは明らかに違っている。
「……平気だ。ただ……ここは……神聖魔法の力が濃すぎる。」
その言葉にアリアの眉が曇る。
「少し休んだ方がいいよ。無理しないで。」
「……いや、大丈夫だ。ここで立ち止まるわけにはいかない。」
そう言いながらも、イアンの声はどこか苦しげだった。
ルイスが剣を肩に乗せ、軽くため息をつく。
「お前、いつも一人で背負いすぎだ。俺たちがいるんだから、少しは頼れ。」
その言葉にイアンは小さく笑みを浮かべた。
「……分かってる。でも、この場所では……俺が試される気がするんだ。」
「試される?」
アリアが問い返すと、イアンはふとアリアを見つめた。
「もし、俺が迷ったり……倒れたりしたときは……お前が支えてくれ。」
イアンのその言葉に、アリアの心臓が一瞬早く跳ねた。視線を外し、ぎこちなく頷く。
「……もちろんだよ。私たち、仲間なんだから。」
イアンは微かに頷くと、再び前を向いて歩き始めた。その後ろ姿を見つめながら、アリアはそっと自分の手を握りしめた。
奥へと進むと、巨大な光の球体が浮かぶ祭壇が現れた。
その光は柔らかく、空間全体を包み込むように広がっているが、どこか威圧感を伴っていた。球体の表面には複雑な模様が流れるように刻まれ、そこから放たれる力が空間を震わせている。
「……これが、試練の場か。」
イアンが立ち止まり、杖を強く握りしめた。
「イアン……。」
アリアが心配そうに声をかけようとしたが、イアンは手を挙げてそれを制した。
「ここで試されるのは、きっと俺だ。魔族の血を引く俺が、この神聖な力に触れなければならない。」
「でも、無茶はしないで! もし危なくなったら、すぐに言ってね。」
アリアの言葉に、イアンは一瞬目を伏せた。そして、振り返ると少し微笑む。
「お前がそう言うなら……俺も倒れるわけにはいかないな。」
アリアの頬が赤く染まるのを見て、ルイスが軽く咳払いをした。
「よし、いい雰囲気はそこまでだ。イアン、もしヤバそうなら俺たちが何とかする。お前はお前で全力を出せ。」
「……分かった。行く。」
イアンが祭壇に近づくと、光の球体が強く輝き始めた。
光が収まると、そこにはイアンと瓜二つの姿が立っていた。
髪も目も杖を握る仕草も同じだが、その目には冷たい光が宿っている。彼は静かに口を開いた。
「お前は何者だ?」
その問いに、イアンは眉をひそめる。
「……俺自身にそんなことを聞かれるとはな。」
「お前は魔族の血を呪い、孤独を選んだ。それが本当の姿だろう?」
光のイアンは、さらに冷たい声で続けた。
「なぜ人間の世界に関わろうとする? その血が、彼らにとって異物だということは分かっているはずだ。」
その言葉に、イアンは唇を噛む。
「確かに……俺は人間の世界で異物だ。だが、俺を信じてくれる奴がいる。俺を……必要としてくれる奴が……。」
イアンがそう言いかけたとき、ふと目の端にアリアの姿が浮かんだ。光の壁越しに、彼女は真剣な目でイアンを見つめている。
「イアン、あなただけで戦わないで! 私もいるよ!」
その声に、イアンの心が揺れた。
「……俺は、一人じゃない。アリアが、ルイスが……俺を信じてくれるなら……!」
イアンが杖を振り上げると、冷たい氷が光のイアンを包み込み、空間が震えた。
「迷いを越えたか……進むがいい。」
光のイアンは微笑むと、消え去った。
光が収まり、イアンが静かに祭壇の前に膝をついた。
「……終わったのか……。」
アリアとルイスが駆け寄る。
「イアン!」
アリアが思わずイアンの手を握りしめた。その手の温かさに、イアンは驚いたように顔を上げる。
「……ありがとう、アリア。」
アリアも気まずそうに手を離し、視線をそらした。
「べ、別に……仲間だから当然でしょ!」
ルイスが苦笑しながら立ち上がるイアンを支える。
「これで準備は整ったな。次は、ヴァリオスの番だ。」
三人は互いに頷き合い、聖域の奥へと歩き出した。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~
鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。
そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。
母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。
双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた──
前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる