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36章 セイントリヴァー
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三人が聖域の奥深くに足を踏み入れると、空気は次第に変わり始めた。
柔らかな光で満たされていた空間は、いつの間にか冷たい闇に侵されている。白く輝いていた柱は色を失い、代わりに赤黒いひび割れが表面に走っていた。微かに聞こえる不気味な低音が、足元を伝って体に響く。
「……嫌な気配だな。」
ルイスが剣を肩に乗せ、周囲を警戒しながら呟く。
「何かが……この聖域の力を歪めている……。」
イアンが静かに杖を握り直した。その表情には、聖域の影響を耐えている苦痛がわずかに滲んでいる。
「イアン、大丈夫?」
アリアが不安げに問いかけると、イアンは短く頷く。
「問題ない。ここで立ち止まるわけにはいかない。」
そのとき、空間の中央にある赤い光がぼんやりと明滅し始めた。それは次第に形を成し、一人の男の輪郭を浮かび上がらせる。
「ようこそ、光に満ちた聖域へ。……とはいえ、今はその輝きも失われているがな。」
ヴァリオスが現れると、空気が一層重くなった。彼は長い黒髪を揺らし、冷たく赤い瞳を三人に向ける。その漆黒のローブが闇そのものと一体化しているかのように見えた。
「……ヴァリオス。」
イアンが低い声で名を呼ぶ。その瞳には、以前出会ったときの怒りと緊張が宿っていた。
「まだ足掻いているのか、弟よ。」
ヴァリオスは嘲笑を浮かべながら、ゆっくりと歩み寄った。その動きには一切の迷いがない。
「ここは聖域のはずだ。お前がこの地に立っている理由、話してもらおうか。」
イアンの声に、ヴァリオスはわずかに口角を上げた。
「その通りだな。この地は本来、魔族にとって耐えがたい場所だ。だが……。」
ヴァリオスはローブの中から、奇妙な光を放つ小さな装置を取り出した。それは宝石のように見えたが、内部で魔力が渦を巻いているのが分かる。
「これがある限り、私にはこの地の神聖な力すら無力だ。」
「……魔道具か!」
ルイスが目を細めて言った。その目は、ヴァリオスが手にしたものを見据えている。
「その通り。古代の魔族が作り出した『光喰いの結晶』。これを使えば、この地の神聖魔法はすべて私の糧となる。」
ヴァリオスが軽く結晶を掲げると、光の柱がさらに薄れ、空間全体が闇に染まった。
「貴様……!」
イアンが杖を構えたその瞬間、ヴァリオスは静かに笑った。
「焦るな、弟よ。お前が人間どもにすがる愚かさ……それを終わらせるためにここで待っていた。」
ヴァリオスが手をかざすと、空間全体が震え始め、無数の魔物が影から湧き出た。それらは一斉に三人へと襲いかかる。
「……数が多い! イアン、どうする?」
アリアが盾を構えながら後ろを振り返る。
「ルイスが左を押さえろ。アリア、右を頼む。俺が中心を抑える!」
イアンの指示で三人がそれぞれの位置につき、魔物たちに応戦する。
ルイスは剣を振り抜き、雷の剣舞で複数の魔物を一気に斬り裂いた。その衝撃波が空間を明るく照らす。
「お前たち、早く動け! 数が増えてるぞ!」
アリアも剣と盾を駆使し、魔物の群れを切り崩していく。その隙のない動きが次第に敵を押し返していった。
しかし、ヴァリオスは冷静に三人を見下ろしながら、再び結晶を掲げた。
「……小賢しい。だが、お前たちにこの力は越えられまい。」
彼が魔道具を起動させると、闇が渦巻き、一際巨大な魔物が生まれた。それは周囲の光を吸い込むかのように、全身を黒い霧で覆っていた。
「これ以上好きにはさせない!」
アリアが盾を構え、魔物に突撃する。しかし、その一撃は霧に吸収されてしまった。
「……ダメージが通らない!」
「霧ごと凍らせるしかない。」
イアンが冷静に魔法を放つと、霧の魔物が一瞬動きを止めた。その隙にアリアが剣を振り下ろし、魔物を真っ二つにする。
「ナイスだ、アリア!」
「イアンが止めてくれたおかげ!」
互いに短い言葉を交わしながらも、その目には信頼が宿っていた。
「お前たちの連携か……。だが、そんなものでは私には届かない。」
ヴァリオスが黒い剣を振り上げ、強烈な衝撃波を放つ。それはアリアたちを吹き飛ばしそうな勢いだったが、イアンが土の壁を立ち上げて防いだ。
「アリア、少し時間を稼げ!」
イアンが叫ぶと、アリアは迷わずヴァリオスに向かって駆け出した。
「アンタがどれだけ強くても……!」
彼女は盾を構え、ヴァリオスの剣撃を受け止める。そしてその隙に、イアンが結晶を狙った氷の刃を放つ。
「これで終わりだ!」
氷の刃が結晶を貫き、ヴァリオスの闇が崩れ始めた。
ヴァリオスが膝をつき、崩れゆく結晶を見つめた。その赤い瞳には、わずかな驚きが浮かんでいた。
「……やるものだな、弟よ……。」
ヴァリオスは静かに霧へと溶け込み、消え去った。
柔らかな光で満たされていた空間は、いつの間にか冷たい闇に侵されている。白く輝いていた柱は色を失い、代わりに赤黒いひび割れが表面に走っていた。微かに聞こえる不気味な低音が、足元を伝って体に響く。
「……嫌な気配だな。」
ルイスが剣を肩に乗せ、周囲を警戒しながら呟く。
「何かが……この聖域の力を歪めている……。」
イアンが静かに杖を握り直した。その表情には、聖域の影響を耐えている苦痛がわずかに滲んでいる。
「イアン、大丈夫?」
アリアが不安げに問いかけると、イアンは短く頷く。
「問題ない。ここで立ち止まるわけにはいかない。」
そのとき、空間の中央にある赤い光がぼんやりと明滅し始めた。それは次第に形を成し、一人の男の輪郭を浮かび上がらせる。
「ようこそ、光に満ちた聖域へ。……とはいえ、今はその輝きも失われているがな。」
ヴァリオスが現れると、空気が一層重くなった。彼は長い黒髪を揺らし、冷たく赤い瞳を三人に向ける。その漆黒のローブが闇そのものと一体化しているかのように見えた。
「……ヴァリオス。」
イアンが低い声で名を呼ぶ。その瞳には、以前出会ったときの怒りと緊張が宿っていた。
「まだ足掻いているのか、弟よ。」
ヴァリオスは嘲笑を浮かべながら、ゆっくりと歩み寄った。その動きには一切の迷いがない。
「ここは聖域のはずだ。お前がこの地に立っている理由、話してもらおうか。」
イアンの声に、ヴァリオスはわずかに口角を上げた。
「その通りだな。この地は本来、魔族にとって耐えがたい場所だ。だが……。」
ヴァリオスはローブの中から、奇妙な光を放つ小さな装置を取り出した。それは宝石のように見えたが、内部で魔力が渦を巻いているのが分かる。
「これがある限り、私にはこの地の神聖な力すら無力だ。」
「……魔道具か!」
ルイスが目を細めて言った。その目は、ヴァリオスが手にしたものを見据えている。
「その通り。古代の魔族が作り出した『光喰いの結晶』。これを使えば、この地の神聖魔法はすべて私の糧となる。」
ヴァリオスが軽く結晶を掲げると、光の柱がさらに薄れ、空間全体が闇に染まった。
「貴様……!」
イアンが杖を構えたその瞬間、ヴァリオスは静かに笑った。
「焦るな、弟よ。お前が人間どもにすがる愚かさ……それを終わらせるためにここで待っていた。」
ヴァリオスが手をかざすと、空間全体が震え始め、無数の魔物が影から湧き出た。それらは一斉に三人へと襲いかかる。
「……数が多い! イアン、どうする?」
アリアが盾を構えながら後ろを振り返る。
「ルイスが左を押さえろ。アリア、右を頼む。俺が中心を抑える!」
イアンの指示で三人がそれぞれの位置につき、魔物たちに応戦する。
ルイスは剣を振り抜き、雷の剣舞で複数の魔物を一気に斬り裂いた。その衝撃波が空間を明るく照らす。
「お前たち、早く動け! 数が増えてるぞ!」
アリアも剣と盾を駆使し、魔物の群れを切り崩していく。その隙のない動きが次第に敵を押し返していった。
しかし、ヴァリオスは冷静に三人を見下ろしながら、再び結晶を掲げた。
「……小賢しい。だが、お前たちにこの力は越えられまい。」
彼が魔道具を起動させると、闇が渦巻き、一際巨大な魔物が生まれた。それは周囲の光を吸い込むかのように、全身を黒い霧で覆っていた。
「これ以上好きにはさせない!」
アリアが盾を構え、魔物に突撃する。しかし、その一撃は霧に吸収されてしまった。
「……ダメージが通らない!」
「霧ごと凍らせるしかない。」
イアンが冷静に魔法を放つと、霧の魔物が一瞬動きを止めた。その隙にアリアが剣を振り下ろし、魔物を真っ二つにする。
「ナイスだ、アリア!」
「イアンが止めてくれたおかげ!」
互いに短い言葉を交わしながらも、その目には信頼が宿っていた。
「お前たちの連携か……。だが、そんなものでは私には届かない。」
ヴァリオスが黒い剣を振り上げ、強烈な衝撃波を放つ。それはアリアたちを吹き飛ばしそうな勢いだったが、イアンが土の壁を立ち上げて防いだ。
「アリア、少し時間を稼げ!」
イアンが叫ぶと、アリアは迷わずヴァリオスに向かって駆け出した。
「アンタがどれだけ強くても……!」
彼女は盾を構え、ヴァリオスの剣撃を受け止める。そしてその隙に、イアンが結晶を狙った氷の刃を放つ。
「これで終わりだ!」
氷の刃が結晶を貫き、ヴァリオスの闇が崩れ始めた。
ヴァリオスが膝をつき、崩れゆく結晶を見つめた。その赤い瞳には、わずかな驚きが浮かんでいた。
「……やるものだな、弟よ……。」
ヴァリオスは静かに霧へと溶け込み、消え去った。
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