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第2話 選択
王宮の正門を抜けたところで、足を止めた。石畳はまだ昼の熱をわずかに残している。背後の扉が閉まる音が、遅れて静かに届いた。
振り返らないまま、口を開く。
「ディルク、あなたは来なくていいわ」
気配は一歩後ろにある。距離は正確で、いつもと同じだった。
「同行します」
間を置かずに返る。
私は振り返る。
「護衛任務は、ここまでのはずよ」
「いいえ」
短く否定される。
「教団の命令は、聖女リシェルの護衛です。場所は限定されていません」
迷いのない口調だった。確認ではなく、事実の提示に近い。
私は一歩だけ近づく。
「私はもう王子妃ではないわ」
「承知しています」
「聖女からも下ろされるかもしれない。それでも護衛するの?」
「はい」
即答だった。
言葉を重ねる余地はない。私は視線を外す。
「……そう」
それだけ応じて、歩き出す。石畳を踏む音が、規則的に続く。
数歩遅れて、同じ音が重なった。距離は変わらない。一定の間隔を保ったまま、ディルクが後ろにいる。
門を抜けると、空気が変わる。城内の整えられた匂いが薄れ、街の雑多な気配が混じる。
視線を感じる。好奇と警戒が半分ずつ混ざったものだ。
私は立ち止まらない。
「ディルク」
「はい」
「彼らに何も言わなかったのね」
わずかに間があく。
「……申し開きはしませんでした」
私は前を向いたまま続ける。
「不義の事実はなかったのに?」
「はい」
短い返答だった。
「必要ないと判断しました」
歩調は乱れない。後ろから同じ間隔で足音が続く。
「言っても無駄だと分かっていたのね」
「はい」
それで十分だった。
城壁の影を抜けると、日差しが強くなる。視界が開け、街道が遠くまで伸びているのが見えた。
私は足を止めずに言う。
「これから聖都へ向かう」
「了解しました。西の街道を取ります」
即座に返る。
「準備は」
「問題ありません」
必要なやり取りだけが交わされる。
王都の門はすぐ後ろにあるが、振り返る理由はない。戻る選択肢も、最初から用意されていない。
風が少し強くなり、外套の裾が揺れる。
隣にはいない。一定の距離を保ったまま、後ろにいる。
それでいいと思う。
私はそのまま街道へと足を進めた。
振り返らないまま、口を開く。
「ディルク、あなたは来なくていいわ」
気配は一歩後ろにある。距離は正確で、いつもと同じだった。
「同行します」
間を置かずに返る。
私は振り返る。
「護衛任務は、ここまでのはずよ」
「いいえ」
短く否定される。
「教団の命令は、聖女リシェルの護衛です。場所は限定されていません」
迷いのない口調だった。確認ではなく、事実の提示に近い。
私は一歩だけ近づく。
「私はもう王子妃ではないわ」
「承知しています」
「聖女からも下ろされるかもしれない。それでも護衛するの?」
「はい」
即答だった。
言葉を重ねる余地はない。私は視線を外す。
「……そう」
それだけ応じて、歩き出す。石畳を踏む音が、規則的に続く。
数歩遅れて、同じ音が重なった。距離は変わらない。一定の間隔を保ったまま、ディルクが後ろにいる。
門を抜けると、空気が変わる。城内の整えられた匂いが薄れ、街の雑多な気配が混じる。
視線を感じる。好奇と警戒が半分ずつ混ざったものだ。
私は立ち止まらない。
「ディルク」
「はい」
「彼らに何も言わなかったのね」
わずかに間があく。
「……申し開きはしませんでした」
私は前を向いたまま続ける。
「不義の事実はなかったのに?」
「はい」
短い返答だった。
「必要ないと判断しました」
歩調は乱れない。後ろから同じ間隔で足音が続く。
「言っても無駄だと分かっていたのね」
「はい」
それで十分だった。
城壁の影を抜けると、日差しが強くなる。視界が開け、街道が遠くまで伸びているのが見えた。
私は足を止めずに言う。
「これから聖都へ向かう」
「了解しました。西の街道を取ります」
即座に返る。
「準備は」
「問題ありません」
必要なやり取りだけが交わされる。
王都の門はすぐ後ろにあるが、振り返る理由はない。戻る選択肢も、最初から用意されていない。
風が少し強くなり、外套の裾が揺れる。
隣にはいない。一定の距離を保ったまま、後ろにいる。
それでいいと思う。
私はそのまま街道へと足を進めた。
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