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人間が統治するレイド王国、東方教区の小さな孤児院。
朝の祈りを終えたばかりの静かな食堂で、俺はククルの隣に座っていた。陽光がステンドグラスを透かして、彼の銀髪を柔らかく照らしている。まるで天使像みたいに綺麗だと、何度も思う。
「……ジム、もう食べないの?」
小さな声が俺を呼ぶ。いつも通りの、やわらかい微笑み。
ククルは控えめに俺の腕をつつくようにして、食器を差し出した。俺が食べ終わるのを待っていたらしい。
「ん? ああ、大丈夫。もう腹いっぱいだ」
「そう……無理はしないでね?」
どこまでも優しい。
だけど――だからこそ、こいつは危なっかしい。
ククルは孤児院に来た時から、他の孤児たちとは少し違ってた。
白磁のような肌。薄く透ける銀の髪。大きく潤んだ、空色に近い光の瞳。
院の神父さまたちも「これは天使との混血だろう」とすぐに気づいたらしい。
今俺たちが住んでいるレイド王国の国民はほとんどが純人間だ。だが、他の国には三角の耳があり力が強い獣人やドラゴンの姿と人型を使い分ける竜人など色んなやつらがいる。
実際、ククルは天使族との混血で、癒しの神アスクリィエルを篤く信じていた。
だが――天使一族のその美しい特性ゆえ、幼い頃から人間の貴族連中に目をつけられた。
「引き取りたい」だの「養子に」だの、何度も連れて行かれそうになったことがある。本当にククルを大切にしてくれるなら良いが、世の中そんなお人好しは滅多に居ない。
だから、そのたびに俺は、前に立って突っぱねてきた。
腕っぷしだけは強かったから。少し混じる竜族の血が、俺の力と身体を作ってる。
「……あの時も、お前を攫おうとしたあの領主の手の骨を折ったっけな」
思い出して呟くと、ククルが困ったように目を伏せた。
「……ジムは、すぐ手が出るんだから」
「出さなきゃ、お前は今ここにいなかったかもしれないだろ」
そう言うと、ククルは小さく笑った。
「……ありがとう、ジム。ずっと守ってくれて」
そうやって礼を言うお前が一番危なっかしいんだよ。
そう思いながらも、俺はその小さな頭を慎重に優しく撫でた。俺が少し力加減を間違えるだけで、ククルはすぐ怪我をしてしまう。
ふわふわと柔らかな髪の感触が指先に広がる。何度も触れてきたはずなのに、触れるたびに胸の奥がざわつく。
「……いいんだ。俺の傍にいろよ。お前を守るのは俺の役目だからな」
ククルの白い頬が、ほんのりと朱に染まる。
俺の心臓が一瞬、強く跳ねた。
「……うん。ジムがいるなら、安心だよ」
淡い笑顔を浮かべるククルの横顔を、俺は誰にも見られないようにそっと見つめた。
──いつか、この手が届かなくなる日が来るかもしれない。
貴族の誰かに攫われるかもしれない。
天使の血ゆえに、国に仕えさせられるかもしれない。
けれど、その日が来るまでは――
「おい、ジムー! 掃除当番だぞー!」
院の男の子たちの呼び声に振り返ると、ククルも隣で微笑んで立ち上がった。
「行こう? ジム」
「ああ、行くか」
今日もまた、俺の一日が始まる。
この手を伸ばして、あいつの背を護り続ける日々だ。
朝の祈りを終えたばかりの静かな食堂で、俺はククルの隣に座っていた。陽光がステンドグラスを透かして、彼の銀髪を柔らかく照らしている。まるで天使像みたいに綺麗だと、何度も思う。
「……ジム、もう食べないの?」
小さな声が俺を呼ぶ。いつも通りの、やわらかい微笑み。
ククルは控えめに俺の腕をつつくようにして、食器を差し出した。俺が食べ終わるのを待っていたらしい。
「ん? ああ、大丈夫。もう腹いっぱいだ」
「そう……無理はしないでね?」
どこまでも優しい。
だけど――だからこそ、こいつは危なっかしい。
ククルは孤児院に来た時から、他の孤児たちとは少し違ってた。
白磁のような肌。薄く透ける銀の髪。大きく潤んだ、空色に近い光の瞳。
院の神父さまたちも「これは天使との混血だろう」とすぐに気づいたらしい。
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実際、ククルは天使族との混血で、癒しの神アスクリィエルを篤く信じていた。
だが――天使一族のその美しい特性ゆえ、幼い頃から人間の貴族連中に目をつけられた。
「引き取りたい」だの「養子に」だの、何度も連れて行かれそうになったことがある。本当にククルを大切にしてくれるなら良いが、世の中そんなお人好しは滅多に居ない。
だから、そのたびに俺は、前に立って突っぱねてきた。
腕っぷしだけは強かったから。少し混じる竜族の血が、俺の力と身体を作ってる。
「……あの時も、お前を攫おうとしたあの領主の手の骨を折ったっけな」
思い出して呟くと、ククルが困ったように目を伏せた。
「……ジムは、すぐ手が出るんだから」
「出さなきゃ、お前は今ここにいなかったかもしれないだろ」
そう言うと、ククルは小さく笑った。
「……ありがとう、ジム。ずっと守ってくれて」
そうやって礼を言うお前が一番危なっかしいんだよ。
そう思いながらも、俺はその小さな頭を慎重に優しく撫でた。俺が少し力加減を間違えるだけで、ククルはすぐ怪我をしてしまう。
ふわふわと柔らかな髪の感触が指先に広がる。何度も触れてきたはずなのに、触れるたびに胸の奥がざわつく。
「……いいんだ。俺の傍にいろよ。お前を守るのは俺の役目だからな」
ククルの白い頬が、ほんのりと朱に染まる。
俺の心臓が一瞬、強く跳ねた。
「……うん。ジムがいるなら、安心だよ」
淡い笑顔を浮かべるククルの横顔を、俺は誰にも見られないようにそっと見つめた。
──いつか、この手が届かなくなる日が来るかもしれない。
貴族の誰かに攫われるかもしれない。
天使の血ゆえに、国に仕えさせられるかもしれない。
けれど、その日が来るまでは――
「おい、ジムー! 掃除当番だぞー!」
院の男の子たちの呼び声に振り返ると、ククルも隣で微笑んで立ち上がった。
「行こう? ジム」
「ああ、行くか」
今日もまた、俺の一日が始まる。
この手を伸ばして、あいつの背を護り続ける日々だ。
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