51 / 63
50
しおりを挟む
春の風が熱を帯びて、夏を連れてきはじめたころ――
ルナ離宮の執務室で、私は静かにカティアの報告を聞いていた。
「──これが、今回引き出せた証言の詳細ですわ」
カティアは丁寧に整えた書簡を私の前に差し出す。
その端正な文字には、貴族婦人たちの茶会で交わされた何気ない会話の断片が、巧みにまとめられていた。
「バルモント家の動きは、やはり――水面下で広がりつつありました」
「……やはりな」
私は低く息を吐く。
バルモント家。
母の実家にして、かつて第一王子暗殺疑惑の渦中にあった家門。
そして今、王家における序列を取り戻すため、再び静かに蠢いていた。
「カティア。よくぞここまで聞き出してくれた」
「皆様、驚くほど口が軽いものですわ。少し傾聴すれば、隠しておきたい本音が自然と零れてまいります」
穏やかな微笑を浮かべる彼女に、私は改めて誇らしさを感じる。
──この妃は、王宮にとっても私にとっても、かけがえのない存在だ。
◇ ◇ ◇
それから数日後――
私は信頼できる重臣を伴い、密かにバルモント家当主との会談を設けていた。
互いに名指しは避ける。
だが言葉の端々から、互いの腹の内は既に晒されている。
「……誤解があってはなりませぬぞ、第六王子殿下。
我らが王家に対して不敬など、微塵もございませぬ」
「ならば、今後は一切の無用な動きを封じていただきたい。今の王家には、安定のみが求められている」
「……無論でございますとも」
バルモント家当主の口元には、引き攣った笑みが浮かんでいた。
証拠の一端を既に押さえている以上、強く出ればそれで十分だった。
◇ ◇ ◇
そして――決定的証拠を手に、私は父王の私室を訪れた。
「──陛下。バルモント家の件、これがすべてでございます」
書簡を差し出す私に、父王はわずかに目を細めた。
「……よくここまで詰めたな、ユーリ」
「すべて、妃殿下――カティアの働きによるものです」
静かに頷いた父王は、しばらく黙考したのちに命じた。
「よかろう。表沙汰にはせぬ。王命として、遠方の辺境領地へと転封させる」
「感謝いたします」
「これ以上、王家に火種を残すわけにはいかぬからな」
静かな決断が、玉座を穏やかに守る王の采配なのだと、私は胸の中で深く納得していた。
◇ ◇ ◇
こうして――
バルモント家は王命により、王都から遠く離れた寒村へと左遷されることとなった。
名誉も、家そのものも保たれた。
だが、その政治的影響力は、今後完全に失われていくだろう。
そして、かつての旧派閥貴族たちも王太子・第四王子陣営へと静かに吸収され――
王位継承問題の火種は、完全に鎮火へと向かっていった。
──まさしく、アレスト王国流の「粛清」である。
(これで――ようやく)
私は静かに、胸の奥の重石が解けていくのを感じていた。
ルナ離宮の執務室で、私は静かにカティアの報告を聞いていた。
「──これが、今回引き出せた証言の詳細ですわ」
カティアは丁寧に整えた書簡を私の前に差し出す。
その端正な文字には、貴族婦人たちの茶会で交わされた何気ない会話の断片が、巧みにまとめられていた。
「バルモント家の動きは、やはり――水面下で広がりつつありました」
「……やはりな」
私は低く息を吐く。
バルモント家。
母の実家にして、かつて第一王子暗殺疑惑の渦中にあった家門。
そして今、王家における序列を取り戻すため、再び静かに蠢いていた。
「カティア。よくぞここまで聞き出してくれた」
「皆様、驚くほど口が軽いものですわ。少し傾聴すれば、隠しておきたい本音が自然と零れてまいります」
穏やかな微笑を浮かべる彼女に、私は改めて誇らしさを感じる。
──この妃は、王宮にとっても私にとっても、かけがえのない存在だ。
◇ ◇ ◇
それから数日後――
私は信頼できる重臣を伴い、密かにバルモント家当主との会談を設けていた。
互いに名指しは避ける。
だが言葉の端々から、互いの腹の内は既に晒されている。
「……誤解があってはなりませぬぞ、第六王子殿下。
我らが王家に対して不敬など、微塵もございませぬ」
「ならば、今後は一切の無用な動きを封じていただきたい。今の王家には、安定のみが求められている」
「……無論でございますとも」
バルモント家当主の口元には、引き攣った笑みが浮かんでいた。
証拠の一端を既に押さえている以上、強く出ればそれで十分だった。
◇ ◇ ◇
そして――決定的証拠を手に、私は父王の私室を訪れた。
「──陛下。バルモント家の件、これがすべてでございます」
書簡を差し出す私に、父王はわずかに目を細めた。
「……よくここまで詰めたな、ユーリ」
「すべて、妃殿下――カティアの働きによるものです」
静かに頷いた父王は、しばらく黙考したのちに命じた。
「よかろう。表沙汰にはせぬ。王命として、遠方の辺境領地へと転封させる」
「感謝いたします」
「これ以上、王家に火種を残すわけにはいかぬからな」
静かな決断が、玉座を穏やかに守る王の采配なのだと、私は胸の中で深く納得していた。
◇ ◇ ◇
こうして――
バルモント家は王命により、王都から遠く離れた寒村へと左遷されることとなった。
名誉も、家そのものも保たれた。
だが、その政治的影響力は、今後完全に失われていくだろう。
そして、かつての旧派閥貴族たちも王太子・第四王子陣営へと静かに吸収され――
王位継承問題の火種は、完全に鎮火へと向かっていった。
──まさしく、アレスト王国流の「粛清」である。
(これで――ようやく)
私は静かに、胸の奥の重石が解けていくのを感じていた。
116
あなたにおすすめの小説
【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
この人が私の夫……政略結婚だけど、一目惚れです!
12歳にして、戦争回避のために隣国の王弟に嫁ぐことになった末っ子姫アンジェル。15歳も年上の夫に会うなり、一目惚れした。彼のすべてが大好きなのに、私は年の離れた妹のように甘やかされるばかり。溺愛もいいけれど、妻として愛してほしいわ。
両片思いの擦れ違い夫婦が、本物の愛に届くまで。ハッピーエンド確定です♪
ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/07/06……完結
2024/06/29……本編完結
2024/04/02……エブリスタ、トレンド恋愛 76位
2024/04/02……アルファポリス、女性向けHOT 77位
2024/04/01……連載開始
不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
翼 うみ
恋愛
父の会社を立て直す交換条件のため、ほぼ家族に身売りされた形で関東最大級の極道・桜花組の次期組長に嫁入りしたジェシカ。しかし母を亡くして以降、義母と義妹に虐げられていたジェシカは実家を出られるなら、と前向きだった。夫となる和仁には「君を愛することはない」と冷たく突き放される。それでもジェシカは傷つくことはなく、自分にできることを探して楽しんでいた。
和仁には辛い過去がありそれ故に誰のことも愛さないと決めていたが、純真で健気なジェシカに段々と惹かれてゆき――。
政略結婚から始まる溺愛シンデレラストーリー。
「俺にしがみつくのはやめろ」と言われて恋が覚めたので、しがみつかずにリリースします。相容れないとほざくあなたは、今、私に捨てられましたわ
西野歌夏
恋愛
前世でフラれた記憶を思いだしたフローラ・ガトバンは、18歳の伯爵令嬢だ。今まさにデジャブのように同じ光景を見ていた。
エイトレンスのアルベルト王太子にまつわるストーリーです。
※の付いたタイトルは、あからさまな性的表現を含みます。苦手な方はお気をつけていただければと思います。
2025.5.29 完結いたしました。
【完結】氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~
雨宮羽那
恋愛
魔術国家アステリエで事務官として働くセレフィアは、義理の家族に給料を奪われ、婚期を逃した厄介者として扱われていた。
そんなある日、上司である魔術師長・シリウスが事務室へやってきて、「私と結婚してください」と言い放った!
詳しく話を聞けば、どうやらシリウスにも事情があるようで、契約結婚の話を持ちかけられる。
家から抜け出るきっかけだと、シリウスとの結婚を決意するセレフィア。
同居生活が始まるが、シリウスはなぜかしれっとセレフィアを甘やかしてくる!?
「これは契約結婚のはずですよね!?」
……一方セレフィアがいなくなった義理の家族は、徐々に狂い始めて……?
◇◇◇◇
恋愛小説大賞に応募しています。
お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます( . .)"
モチベになるので良ければ応援していただけると嬉しいです!
※この作品は「小説家になろう」様にも掲載しております。
※表紙はAIイラストです。文字入れは「装丁カフェ」様を使用しております。
※小説内容にはAI不使用です。
恐怖侯爵の後妻になったら、「君を愛することはない」と言われまして。
長岡更紗
恋愛
落ちぶれ子爵令嬢の私、レディアが後妻として嫁いだのは──まさかの恐怖侯爵様!
しかも初夜にいきなり「君を愛することはない」なんて言われちゃいましたが?
だけど、あれ? 娘のシャロットは、なんだかすごく懐いてくれるんですけど!
義理の娘と仲良くなった私、侯爵様のこともちょっと気になりはじめて……
もしかして、愛されるチャンスあるかも? なんて思ってたのに。
「前妻は雲隠れした」って噂と、「死んだのよ」って娘の言葉。
しかも使用人たちは全員、口をつぐんでばかり。
ねえ、どうして? 前妻さんに何があったの?
そして、地下から聞こえてくる叫び声は、一体!?
恐怖侯爵の『本当の顔』を知った時。
私の心は、思ってもみなかった方向へ動き出す。
*他サイトにも公開しています
氷の宰相補佐と押しつけられた厄災の花嫁
瑞原唯子
恋愛
王命により、アイザックはまだ十歳の少女を妻として娶ることになった。
彼女は生後まもなく始末されたはずの『厄災の姫』である。最近になって生存が判明したが、いまさら王家に迎え入れることも始末することもできない——悩んだ末、国王は序列一位のシェフィールド公爵家に押しつけたのだ。
冷遇された妻は愛を求める
チカフジ ユキ
恋愛
結婚三年、子供ができないという理由で夫ヘンリーがずっと身体の関係を持っていた女性マリアを連れてきた。
そして、今後は彼女をこの邸宅の女主として仕えよと使用人に命じる。
正妻のアリーシアは離れに追い出され、冷遇される日々。
離婚したくても、金づるであるアリーシアをそう簡単には手放してはくれなかった。
しかし、そんな日々もある日突然終わりが来る。
それは父親の死から始まった。
本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます
氷雨そら
恋愛
本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。
「君が番だ! 間違いない」
(番とは……!)
今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。
本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。
小説家になろう様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる