52 / 63
51
しおりを挟む
王宮・謁見の間の奥、極秘の書庫室――
そこに、私は王太子殿下と陛下に伴われて足を踏み入れていた。
静まり返った空間の奥で、陛下がゆっくりと一冊の記録簿を取り出す。
「……ユーリよ。今回の一件が収束した今だからこそ、見せるべき記録がある」
それは、十四年前――
私の母、サファイア宮妃アンリエットが亡くなった際の内部調査報告書だった。
「事故調査官の極秘報告だ。本来は、王位継承問題の混乱を防ぐため、封印してきたものだが……」
私は無言で頷き、書面に目を落とす。
──サファイア宮妃殿下急逝事案・調査報告
・表向きは流行病死と処理
・死因は毒殺と断定
・毒物は茶器より検出
・毒の盛られた茶は、元々は第六王子殿下に供される予定だった
・当日、妃殿下が王子殿下に代わり茶を口にする
・直後に体調急変、急逝
・警備体制強化により、以後のサファイア宮侵入は困難化
私は、頁をめくる手が震えた。
「……私が、狙われていた……」
低く掠れた声が漏れた。
王太子殿下がゆっくりと頷く。
「第一王子暗殺事件以降、ダイヤモンド宮派閥の矛先はサファイア宮に向かっていた。母上は、それを察していたのだろう」
陛下も静かに続ける。
「母親として、お前を守るため……その場で毒を飲んだのだ。お前の身を護る盾となるために」
私の胸の奥で、何かが強く震えた。
(……あの時、私は何も知らず、ただ泣き叫ぶばかりだったのに)
「母上は……ずっと……私のために……」
喉の奥が詰まり、膝が崩れそうになるのを必死で堪えた。
王太子殿下がそっと私の肩に手を置く。
「ユーリ。今だからこそ、真実を伝えたのだ。お前は、ここまで立派に歩いてきた」
陛下も優しく微笑んだ。
「母上はきっと、今のお前を誇りに思っているであろう。既に憎しみは、誰の心にも残してはおらぬ」
私は俯き、静かに涙を零した。
母は――
最後まで、私を守り抜いてくれていたのだ。
◇ ◇ ◇
その夜。
私はカティアを静かに自室へと招き入れていた。
「ユーリ……?」
「……全部、終わったよ」
私は静かに、今日知った全てを彼女へ打ち明けた。
母の選択。
サファイア宮に張り巡らされていた陰謀。
そして――
自分が、どれほど母に愛されていたのかを。
話し終えた私を、カティアは優しく抱きしめた。
「……ユーリ。貴方は、決して一人ではありませんわ」
「カティア……」
「貴方の母上も、王家の皆様も。そして、私も。貴方を守り、共に生きてゆきますわ」
私は、カティアの胸元でそっと涙を零した。
今はただ――
この温もりに包まれて、穏やかな夜を過ごせることが、どれほど幸せなことかを噛み締めながら。
──こうして、サファイア宮を巡る長い因縁も、静かに幕を閉じたのだった。
そこに、私は王太子殿下と陛下に伴われて足を踏み入れていた。
静まり返った空間の奥で、陛下がゆっくりと一冊の記録簿を取り出す。
「……ユーリよ。今回の一件が収束した今だからこそ、見せるべき記録がある」
それは、十四年前――
私の母、サファイア宮妃アンリエットが亡くなった際の内部調査報告書だった。
「事故調査官の極秘報告だ。本来は、王位継承問題の混乱を防ぐため、封印してきたものだが……」
私は無言で頷き、書面に目を落とす。
──サファイア宮妃殿下急逝事案・調査報告
・表向きは流行病死と処理
・死因は毒殺と断定
・毒物は茶器より検出
・毒の盛られた茶は、元々は第六王子殿下に供される予定だった
・当日、妃殿下が王子殿下に代わり茶を口にする
・直後に体調急変、急逝
・警備体制強化により、以後のサファイア宮侵入は困難化
私は、頁をめくる手が震えた。
「……私が、狙われていた……」
低く掠れた声が漏れた。
王太子殿下がゆっくりと頷く。
「第一王子暗殺事件以降、ダイヤモンド宮派閥の矛先はサファイア宮に向かっていた。母上は、それを察していたのだろう」
陛下も静かに続ける。
「母親として、お前を守るため……その場で毒を飲んだのだ。お前の身を護る盾となるために」
私の胸の奥で、何かが強く震えた。
(……あの時、私は何も知らず、ただ泣き叫ぶばかりだったのに)
「母上は……ずっと……私のために……」
喉の奥が詰まり、膝が崩れそうになるのを必死で堪えた。
王太子殿下がそっと私の肩に手を置く。
「ユーリ。今だからこそ、真実を伝えたのだ。お前は、ここまで立派に歩いてきた」
陛下も優しく微笑んだ。
「母上はきっと、今のお前を誇りに思っているであろう。既に憎しみは、誰の心にも残してはおらぬ」
私は俯き、静かに涙を零した。
母は――
最後まで、私を守り抜いてくれていたのだ。
◇ ◇ ◇
その夜。
私はカティアを静かに自室へと招き入れていた。
「ユーリ……?」
「……全部、終わったよ」
私は静かに、今日知った全てを彼女へ打ち明けた。
母の選択。
サファイア宮に張り巡らされていた陰謀。
そして――
自分が、どれほど母に愛されていたのかを。
話し終えた私を、カティアは優しく抱きしめた。
「……ユーリ。貴方は、決して一人ではありませんわ」
「カティア……」
「貴方の母上も、王家の皆様も。そして、私も。貴方を守り、共に生きてゆきますわ」
私は、カティアの胸元でそっと涙を零した。
今はただ――
この温もりに包まれて、穏やかな夜を過ごせることが、どれほど幸せなことかを噛み締めながら。
──こうして、サファイア宮を巡る長い因縁も、静かに幕を閉じたのだった。
116
あなたにおすすめの小説
【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
この人が私の夫……政略結婚だけど、一目惚れです!
12歳にして、戦争回避のために隣国の王弟に嫁ぐことになった末っ子姫アンジェル。15歳も年上の夫に会うなり、一目惚れした。彼のすべてが大好きなのに、私は年の離れた妹のように甘やかされるばかり。溺愛もいいけれど、妻として愛してほしいわ。
両片思いの擦れ違い夫婦が、本物の愛に届くまで。ハッピーエンド確定です♪
ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/07/06……完結
2024/06/29……本編完結
2024/04/02……エブリスタ、トレンド恋愛 76位
2024/04/02……アルファポリス、女性向けHOT 77位
2024/04/01……連載開始
不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
翼 うみ
恋愛
父の会社を立て直す交換条件のため、ほぼ家族に身売りされた形で関東最大級の極道・桜花組の次期組長に嫁入りしたジェシカ。しかし母を亡くして以降、義母と義妹に虐げられていたジェシカは実家を出られるなら、と前向きだった。夫となる和仁には「君を愛することはない」と冷たく突き放される。それでもジェシカは傷つくことはなく、自分にできることを探して楽しんでいた。
和仁には辛い過去がありそれ故に誰のことも愛さないと決めていたが、純真で健気なジェシカに段々と惹かれてゆき――。
政略結婚から始まる溺愛シンデレラストーリー。
「俺にしがみつくのはやめろ」と言われて恋が覚めたので、しがみつかずにリリースします。相容れないとほざくあなたは、今、私に捨てられましたわ
西野歌夏
恋愛
前世でフラれた記憶を思いだしたフローラ・ガトバンは、18歳の伯爵令嬢だ。今まさにデジャブのように同じ光景を見ていた。
エイトレンスのアルベルト王太子にまつわるストーリーです。
※の付いたタイトルは、あからさまな性的表現を含みます。苦手な方はお気をつけていただければと思います。
2025.5.29 完結いたしました。
【完結】氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~
雨宮羽那
恋愛
魔術国家アステリエで事務官として働くセレフィアは、義理の家族に給料を奪われ、婚期を逃した厄介者として扱われていた。
そんなある日、上司である魔術師長・シリウスが事務室へやってきて、「私と結婚してください」と言い放った!
詳しく話を聞けば、どうやらシリウスにも事情があるようで、契約結婚の話を持ちかけられる。
家から抜け出るきっかけだと、シリウスとの結婚を決意するセレフィア。
同居生活が始まるが、シリウスはなぜかしれっとセレフィアを甘やかしてくる!?
「これは契約結婚のはずですよね!?」
……一方セレフィアがいなくなった義理の家族は、徐々に狂い始めて……?
◇◇◇◇
恋愛小説大賞に応募しています。
お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます( . .)"
モチベになるので良ければ応援していただけると嬉しいです!
※この作品は「小説家になろう」様にも掲載しております。
※表紙はAIイラストです。文字入れは「装丁カフェ」様を使用しております。
※小説内容にはAI不使用です。
恐怖侯爵の後妻になったら、「君を愛することはない」と言われまして。
長岡更紗
恋愛
落ちぶれ子爵令嬢の私、レディアが後妻として嫁いだのは──まさかの恐怖侯爵様!
しかも初夜にいきなり「君を愛することはない」なんて言われちゃいましたが?
だけど、あれ? 娘のシャロットは、なんだかすごく懐いてくれるんですけど!
義理の娘と仲良くなった私、侯爵様のこともちょっと気になりはじめて……
もしかして、愛されるチャンスあるかも? なんて思ってたのに。
「前妻は雲隠れした」って噂と、「死んだのよ」って娘の言葉。
しかも使用人たちは全員、口をつぐんでばかり。
ねえ、どうして? 前妻さんに何があったの?
そして、地下から聞こえてくる叫び声は、一体!?
恐怖侯爵の『本当の顔』を知った時。
私の心は、思ってもみなかった方向へ動き出す。
*他サイトにも公開しています
氷の宰相補佐と押しつけられた厄災の花嫁
瑞原唯子
恋愛
王命により、アイザックはまだ十歳の少女を妻として娶ることになった。
彼女は生後まもなく始末されたはずの『厄災の姫』である。最近になって生存が判明したが、いまさら王家に迎え入れることも始末することもできない——悩んだ末、国王は序列一位のシェフィールド公爵家に押しつけたのだ。
冷遇された妻は愛を求める
チカフジ ユキ
恋愛
結婚三年、子供ができないという理由で夫ヘンリーがずっと身体の関係を持っていた女性マリアを連れてきた。
そして、今後は彼女をこの邸宅の女主として仕えよと使用人に命じる。
正妻のアリーシアは離れに追い出され、冷遇される日々。
離婚したくても、金づるであるアリーシアをそう簡単には手放してはくれなかった。
しかし、そんな日々もある日突然終わりが来る。
それは父親の死から始まった。
本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます
氷雨そら
恋愛
本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。
「君が番だ! 間違いない」
(番とは……!)
今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。
本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。
小説家になろう様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる