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第9章 王女のお茶会と恋愛相談地獄
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聞きたくないけど、聞かないといけない。そう思って、なんとか声を絞り出した。
「そ、そのお相手は……」
茶席の静けさを破ったのは、灰色の瞳をわずかに伏せたコンスタンティンの声だった。
「……相手は、セレスティーナ殿下だ」
「えっ」
思わず声が漏れた。
いやいやいや、待って。セレスティーナ様の「好きなのはコンスタンティン様」という打ち明け話を聞いたの、ついこの前よ!?
(両想いじゃん! 私いらなくない!?)
頭の中で全力ツッコミを入れる私をよそに、彼は珍しく言葉を重ねていった。
「殿下は、聡明で、慈愛に満ちていらっしゃる。そして芸術に心から親しまれる……そのお姿は、可憐という他ない。だからこそ、想いを伝えるなら、言葉ではなく音楽で、と考えた」
(いやいやいやいや……なにこの饒舌!? 普段は“うん”とか“そうだな”ぐらいしか言わないくせに、セレスティーナ様の話になった途端、語彙が溢れてるんですけど!?)
真剣な声音に、私は観念するしかなかった。
こうなったら――恩もあるし、協力するしかない。
「……それなら、この曲を」
楽器を抱き、弦に指を置く。静かな旋律を紡ぐと、空気が柔らかく震えた。
届かぬ想いを慰める歌ではなく――寄り添い合う心を祝福する旋律。
「……素晴らしい」
コンスタンティンの目が細められる。
私はその場で楽譜を起こし、カメリア領の文官に手渡した。
「恩に着る」
真剣な眼差しで告げられたその言葉に、鼓動が跳ねる。
さらに、彼の口から続いたのは――
「君の恋も、悲恋に終わらせぬよう力を添えよう」
「……っ」
(いやいやいやいやいや!! 誤解だから! 私に恋とかありませんから! ていうか今さら否定しても絶対信じてもらえないやつでしょ!?)
喉まで出かかった叫びを飲み込み、必死に顔を作る。
そして、どうにかひねり出した。
「……それは、私が何とかすべきことですから」
手出無用、と遠回しに伝わる言葉。
すると彼はふっと笑い、低く呟いた。
「……やはり、エレオノーラは武人でもあったな」
その瞬間だった。
“エレオノーラ殿”でも“エレオノーラ様”でもなく――ただ名を呼ばれた。
一瞬で空気が張り詰め、背後に控えていた文官がわずかに息を呑んだのがわかった。
(……やばい。敬称が外れた。これって……親しい間柄扱いじゃない……!? ほんとに泥沼コースでは!?)
胃がきりきりと悲鳴を上げるのを必死で堪え、私は湯気の立つカップに視線を落とした。
「そ、そのお相手は……」
茶席の静けさを破ったのは、灰色の瞳をわずかに伏せたコンスタンティンの声だった。
「……相手は、セレスティーナ殿下だ」
「えっ」
思わず声が漏れた。
いやいやいや、待って。セレスティーナ様の「好きなのはコンスタンティン様」という打ち明け話を聞いたの、ついこの前よ!?
(両想いじゃん! 私いらなくない!?)
頭の中で全力ツッコミを入れる私をよそに、彼は珍しく言葉を重ねていった。
「殿下は、聡明で、慈愛に満ちていらっしゃる。そして芸術に心から親しまれる……そのお姿は、可憐という他ない。だからこそ、想いを伝えるなら、言葉ではなく音楽で、と考えた」
(いやいやいやいや……なにこの饒舌!? 普段は“うん”とか“そうだな”ぐらいしか言わないくせに、セレスティーナ様の話になった途端、語彙が溢れてるんですけど!?)
真剣な声音に、私は観念するしかなかった。
こうなったら――恩もあるし、協力するしかない。
「……それなら、この曲を」
楽器を抱き、弦に指を置く。静かな旋律を紡ぐと、空気が柔らかく震えた。
届かぬ想いを慰める歌ではなく――寄り添い合う心を祝福する旋律。
「……素晴らしい」
コンスタンティンの目が細められる。
私はその場で楽譜を起こし、カメリア領の文官に手渡した。
「恩に着る」
真剣な眼差しで告げられたその言葉に、鼓動が跳ねる。
さらに、彼の口から続いたのは――
「君の恋も、悲恋に終わらせぬよう力を添えよう」
「……っ」
(いやいやいやいやいや!! 誤解だから! 私に恋とかありませんから! ていうか今さら否定しても絶対信じてもらえないやつでしょ!?)
喉まで出かかった叫びを飲み込み、必死に顔を作る。
そして、どうにかひねり出した。
「……それは、私が何とかすべきことですから」
手出無用、と遠回しに伝わる言葉。
すると彼はふっと笑い、低く呟いた。
「……やはり、エレオノーラは武人でもあったな」
その瞬間だった。
“エレオノーラ殿”でも“エレオノーラ様”でもなく――ただ名を呼ばれた。
一瞬で空気が張り詰め、背後に控えていた文官がわずかに息を呑んだのがわかった。
(……やばい。敬称が外れた。これって……親しい間柄扱いじゃない……!? ほんとに泥沼コースでは!?)
胃がきりきりと悲鳴を上げるのを必死で堪え、私は湯気の立つカップに視線を落とした。
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