ほとりのカフェ

藤原遊

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青森県三沢市の夏は、航空祭とともにやってくる。青い空を背景に、日本の航空自衛隊やアメリカ空軍の戦闘機が空を駆け抜けるその日、街全体が活気と興奮に包まれる。地元の人々にとっても、観光客にとっても、航空祭は年に一度の大きな楽しみだ。

小川原湖のほとりに佇む「ほとりのカフェ」もまた、その特別な日にいつも以上の賑わいを見せていた。窓際の席からは湖越しに航空祭の展示飛行がちらりと見え、遠くから聞こえる戦闘機の轟音が夏の空気を震わせている。

カフェの扉が開き、一人の外国人女性が入ってきた。小さなカメラを肩から下げ、メモ帳を手に持っている。彼女は地元の観光客とは少し違った空気を纏っていた。

「こんにちは。」
店主の康平が英語で挨拶すると、彼女は驚いた表情を浮かべた。

「Hi! Do you speak English?」
少し早口で話す彼女に、康平は笑顔で頷き、「少しだけ」と答えた。

「Perfect. I’m a journalist, covering the air show. This place looks so peaceful.」
彼女の名前はエミリー。アメリカから来た記者で、航空祭の特集記事を書くために三沢市を訪れていた。

「ここは地元の人たちがよく訪れる場所です。どうぞ、ゆっくりしてください。」
康平がそう言うと、エミリーは「ありがとう」と日本語で返し、窓際の席に座った。

エミリーが注文したコーヒーとアップルパイを味わっていると、近くの席に座っていた地元の高校生たちが英語で話しかけた。

「Are you here for the air show?」
少しぎこちない発音だったが、その勇気にエミリーは嬉しそうに頷いた。

「Yes, I am. Are you interested in planes?」
高校生たちは「もちろん」と答え、自衛隊のブルーインパルスが特に楽しみだと熱っぽく語った。エミリーはその様子をメモしながら、彼らの純粋な興奮に微笑んだ。

その日、「ほとりのカフェ」には多くの人々が訪れていた。地元の家族連れや観光客、アメリカ人軍人が交わり、それぞれが航空祭について語り合っている。

エミリーは、カウンターでコーヒーを飲む地元の老人にも声をかけた。

「Have you been living here long?」
老人は少し戸惑いながらも、康平が通訳に入ることで会話を始めた。彼は戦後間もない頃から三沢市に住んでおり、航空祭がいかに街の誇りであるかを語った。

「この街の空はいつも特別なんだよ。戦後の混乱の中で、ここに基地ができて、街が変わった。だけど、空は変わらない。それが嬉しいんだ。」
エミリーはその言葉をノートに書き留め、老人に感謝を伝えた。

夕方、航空祭が終わり、街が少しだけ静けさを取り戻した頃、エミリーは「湖のノート」にペンを走らせた。

「The skies of Misawa are not just for planes. They carry the stories of the people who live here. Thank you for sharing yours.」

康平はその文字を読んで、小さく頷いた。三沢市の空は、ただ戦闘機が飛び交うだけではない。そこには人々の歴史や感情が積み重なり、彼らの生活と繋がっている。そのことを、彼女は感じ取ってくれたのだろう。
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