ほとりのカフェ

藤原遊

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青森県三沢市の冬、雪がしんしんと降る夜、「ほとりのカフェ」の扉が勢いよく開いた。冷たい風とともに入ってきたのは、背の高いアメリカ人男性だった。厚手のジャケットを脱ぎながら、店内を見渡し、満面の笑みを浮かべる。

「コーヘイ!ただいま!」
彼の名前はジョン・マクレガー。従軍記者として2年前まで三沢基地に駐留し、その後、世界各地を取材していた。日本が大好きで、特に三沢の「ほとりのカフェ」と温泉に思い入れが強い。今回は久しぶりに1ヶ月間の滞在が決まり、真っ先にカフェを訪れたのだ。

「ジョンさん、お久しぶりですね。」
康平がカウンターから声をかけると、ジョンは嬉しそうに大きな声で答えた。

「2年ぶりだよ!またこのカフェに来られるのをずっと楽しみにしてたんだ!」
彼はカウンター席に腰を下ろし、「いつものやつ」と笑顔で注文をした。

「いつものやつって、ジョンさんは来るたびに注文変わるじゃないですか。」
康平が軽く笑いながら言うと、ジョンも大きく笑いながら答えた。「確かに!じゃあ今日はコーヒーとアップルパイで!」

カウンターでコーヒーを飲みながら、ジョンは滞在中の計画を話し始めた。

「まずは温泉に行くよ!前回行った小さな温泉旅館が最高だった。僕は裸で知らない人と一緒にいるのが平気なアメリカ人だからね!」
ジョンのその言葉に、他の常連客たちが思わず吹き出した。

「変わってるよねえ、ジョンさんは。」
カフェにいた地元の老婦人が笑いながら言うと、ジョンは満面の笑みで答えた。

「知ってるよ!でも僕は日本の温泉が大好きなんだ。静かだし、リラックスできる。それに、文化的にもすごく興味深いよね。」

「外国の方は温泉苦手な人が多いって聞くけど……ジョンさんみたいな人もいるんだね。」
康平がそう言うと、ジョンは嬉しそうに頷いた。

「僕は日本が好きだからね。温泉もカフェも、三沢の人たちの優しさも全部。」

その日以降、ジョンは毎日のようにカフェを訪れるようになった。カウンターで康平と話し込んだり、他の常連客に積極的に話しかけたり。時には取材の合間に「湖のノート」に日本での体験を書き留めることもあった。

「温泉とカフェは、日本が誇るリラックス文化の象徴だ。」

ある日、ジョンは温泉での出来事を嬉しそうに語り始めた。

「今日ね、小さな温泉で地元のおじいさんに話しかけられたんだ。最初は何を言ってるか分からなかったけど、『また来い』って言ってくれた。言葉が通じなくても、心が通じるって本当にあるんだね。」

その話を聞いていた老婦人が頷きながら言った。「あんた、本当に日本のことが好きなのねえ。あんたみたいな人がいると、私たちもなんだか嬉しいわ。」

ジョンの滞在も残り少なくなったある日、カフェで一人静かにコーヒーを飲んでいた彼は、カウンター越しに康平にこう言った。

「ここは特別な場所だね。僕が世界中どこに行っても、ここは忘れないと思う。」

康平は少し照れたように笑いながら答えた。「そう言っていただけると嬉しいです。ジョンさんがまた三沢に来るときは、ぜひ寄ってくださいね。」

ジョンは「もちろん!」と笑い、最後に「湖のノート」に一言残していった。

「三沢のカフェと温泉は、僕の心の故郷。次に来るときまで、またね。」

ジョンがカフェを後にすると、康平は窓の外に目をやった。雪が舞う湖畔の景色は変わらないが、その中に訪れる人々がそれぞれの物語を持っていることを感じていた。
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