ほとりのカフェ

藤原遊

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冬の夜、小川原湖畔に立つ「ほとりのカフェ」は、店内の灯りが静かに揺れていた。今日もたくさんのお客様が訪れ、それぞれの物語を置いて帰っていった。

店主の康平は、一日の営業を終え、店内の片付けを始めていた。テーブルの上に残ったカップを慎重に片付け、テーブルクロスを丁寧に拭きながら、ふと窓の外に目を向けた。静かな湖畔には雪が降り積もり、白い世界が広がっていた。

「今日は忙しかったな……。」
康平は呟きながらカウンターに戻り、自分のために一杯のコーヒーを淹れ始めた。

挽きたての豆の香りが店内に広がる。湯を注ぐと、カップから湯気が立ち上り、ほのかな苦味の香りが心を落ち着かせる。康平はカウンターの奥の椅子に腰を下ろし、ゆっくりとカップを手に取った。

カフェに流れる静かな音楽の中、康平は今日の出来事を思い返していた。地元の自治会が街の未来について話し合う様子、亡き祖父の手紙を届けようとした少女の真剣な表情、そして地元の人々が喜んで新しい料理を試す姿。

「みんな、いろいろな思いを抱えながらこの場所に集まるんだな。」
康平はそう思いながら、コーヒーを一口飲んだ。心地よい苦味と温かさが、体に染み渡っていく。

店内を見渡すと、窓際の席やカウンターが、今日の賑やかな時間を思い起こさせる。

「あの席では、町内会の話が盛り上がってたっけ。」
「カウンターには、手紙を持ったあの子が座ってたな。」

ふと、カウンター横に置かれた「湖のノート」に目をやる。ページをめくると、今日も多くのメッセージが書かれていた。

「この街で人の温かさに触れました。」
「また来たいと思える場所を見つけました。」
「ありがとう、素敵なカフェでした。」

康平は静かに微笑み、ノートをそっと閉じた。

時計を見ると、もう深夜を回っていた。外は雪が降り続けているが、店内は暖かく、静かな時間が流れている。康平は最後にもう一口コーヒーを飲み干し、カップを洗いに立ち上がった。

片付けを終え、店内の灯りを一つずつ消しながら、康平はふと自分に言い聞かせるように呟いた。

「また明日も、いい一日になりますように。」

最後の灯りを消すと、小川原湖からの冷たい風が吹き抜けたが、康平の心には温かな火が灯っていた。
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