乙女ゲームの悪役令嬢は前世の推しであるパパを幸せにしたい

藤原遊

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再会とさらなる誤解

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舞踏会当日の夜、王宮の大広間は眩いばかりの光で満たされていた。
シャンデリアの煌めきが床の大理石に反射し、貴族たちの絢爛たる衣装が色とりどりに輝いている。
美しい音楽が流れる中、談笑する貴族たちの笑い声が響いていた。

その華やかな空間に、一際目を引く存在があった。

「アイリス様、お美しい……!」

その場にいた貴族たちが振り返る中、堂々と登場したのはルクレール公爵家の令嬢、アイリスだった。
漆黒のドレスが彼女の白い肌を際立たせ、その優雅な立ち振る舞いが会場を一瞬で静かにした。

(注目されすぎてる気がするけど……ここまでは想定内よね)

アイリスは微笑みを保ちながら、大広間の中央に向かった。
その後ろ姿には、どの貴族も目を奪われていた。

「ようこそ、アイリス」

冷静な声が彼女を迎えた。
振り返ると、そこには王太子レオナードが立っていた。
彼の鋭い視線が、アイリスをじっと見つめている。

(また出たわね、この人……)

「王太子殿下、本日はご招待ありがとうございます」

「当然のことだ。貴族たる者、この場で自身の品格を示すべきだからな」

レオナードは一瞬目を細め、皮肉めいた言葉を付け加えた。

「貴女がここで何を企むか、見届けさせてもらう」

(だから、企んでなんかないってば!)

アイリスは冷静を装いながら微笑んだ。

「それでは殿下、どうぞご自由にお楽しみくださいませ」

彼に背を向け、優雅に歩き始める。
レオナードの監視を避けつつ、原作通りの展開を阻止する方法を考えなければならない。

会場の隅に進んだアイリスは、軽く息を吐いた。
その時、視界の端に見慣れた姿が映った。

(クラリス……!)

クラリスは、淡いピンクのドレスを身にまとい、少し緊張した様子で周囲を見渡していた。
彼女に話しかけようとする男性貴族が何人かいたが、どうやらタイミングを計っているようだ。

(このままじゃ原作通り、攻略対象たちがクラリスを助けるイベントが始まるわね)

その展開自体は望ましいが、問題は「その前に悪役令嬢の私が彼女に嫌味を言う場面」があることだった。
そのイベントを避けるために、アイリスは考えた。

(ここで余計なことを言わないように……彼女を褒めるくらいで何とかやり過ごしましょう!)

意を決してクラリスに近づいた。

「クラリスさん」

「アイリス様!」

クラリスは振り向き、嬉しそうに微笑んだ。
その純粋な反応に、アイリスは少し気後れしたが、笑顔を作って言葉を続けた。

「とてもお似合いのドレスですわ。貴女の魅力をさらに引き立てています」

「えっ……そんな!ありがとうございます!」

クラリスの顔が真っ赤になる。
その瞬間、周囲の貴族たちがざわついた。

「アイリス様があの平民の娘を褒めるなんて……!」
「珍しいこともあるものだ」
「何か裏があるのでは?」

アイリスはその声にぎくりとしながらも、平静を保った。

(裏なんてないわ。ただ破滅フラグを避けたかっただけ!)

だが、その時、クラリスのドレスの裾に誰かがぶつかり、彼女がよろけた。

「きゃっ!」

(まずい!転ぶのは原作通りのトラブルイベント!)

咄嗟に手を伸ばし、クラリスを支える。

「大丈夫ですか?」

「ありがとうございます、アイリス様……!」

クラリスの感謝の言葉が響く中、アイリスの行動を見ていた王太子がこちらに近づいてきた。

「貴女が彼女を助けるとは、少し意外だった」

「当然のことをしただけですわ」

アイリスは微笑んでそう答えるが、レオナードはさらに深読みするように目を細めた。

「貴女の真意、いつか必ず明らかにしてみせる」

(また監視強化宣言!?)

内心で頭を抱えながら、アイリスは優雅に一礼してその場を離れた。

その夜、アイリスはベッドの上で疲れた顔をしていた。

「今日も何とか破滅フラグを回避したけど……王太子の疑いがますます深まった気がするわ」

それでも、彼女の胸には強い決意があった。

「負けないわ。お父様のために、私は絶対に破滅しない!」

月明かりが静かに部屋を照らしていた。
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