乙女ゲームの悪役令嬢は前世の推しであるパパを幸せにしたい

藤原遊

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新たな日常、そして不穏な知らせ

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夜の庭は冷たい静寂に包まれていた。
月明かりが木々の間を照らし、風が葉を揺らすたびに影が踊る。

アイリスとハルドは、足音を忍ばせながら庭の奥へと進んでいた。
目の前には、さっき影が動いていたはずの場所が見えてくる。

「アイリス様、後ろに下がってください」

ハルドが静かに言い、剣を抜いた。彼の鋭い目が闇の中を警戒する。

「ここに隠れる何者かがいることは間違いない……」

そう言いかけた瞬間、茂みの中から人影が飛び出した。
その人物はフードを深く被り、暗闇に紛れるように走り去ろうとしている。

「待て!」

ハルドが叫び、即座にその後を追いかける。
アイリスも急いでついていこうとするが、ハルドが振り返り、鋭い声で制した。

「ここに留まってください!」

だが、アイリスはその場に留まる選択をしなかった。

(もしこの人物が事件の真相を握っているなら……今動かなければ、全てが手遅れになるかもしれない)

彼女はハルドの後を追い、走り出した。
フードの人物は森の中へと逃げ込み、ハルドがその距離を詰める。

そして、とうとう人物が追い詰められた瞬間――。

「やめてください!」

突然、アイリスが叫び声を上げた。ハルドが動きを止め、相手を睨む。

「……誰だ?」

フードの人物がゆっくりと振り向き、その顔を見せる。
そこに現れたのは、商会の従業員の一人だった。

「あなた、商会の者ですね?」

アイリスが静かに問いかけると、従業員は怯えた目をしながら後ずさった。

「ち、違う……私は何も知らない!ただ、命令に従っていただけだ!」

「命令?誰の命令です?」

「それは……!」

男が答えようとした瞬間、茂みの中から矢が放たれ、男の足元に突き刺さった。
その矢を放ったのは、森の奥から現れた別のフード姿の人物だった。

「くそっ……!」

ハルドが剣を構えて飛び出そうとするが、森の奥からさらに何人もの影が現れた。

「アイリス様、ここは退避を――」

「いいえ!」

アイリスは叫び声を上げた。

「彼を守らなければ、真相が闇に葬られます!」

彼女のその言葉に、ハルドは一瞬ためらったが、すぐに相手を牽制するように動き出した。

「わかりました。貴女は決して無茶をしないでください」

二人はフードの従業員を守るように立ち、影たちと対峙する。
敵が剣を抜いて近づく中、アイリスは冷静に次の手を考えた。

その時、風を切る音とともに、別方向から複数の馬の蹄が響いた。
闇の中から現れたのは、騎士団を率いる王太子レオナードだった。

「全員動くな!」

鋭い声が森の中に響き渡り、影たちは一斉に動きを止めた。
王太子の登場により、その場の均衡が一気に変わる。

「貴様らがこの事件の裏で糸を引いている者たちか?」

レオナードの問いに、フードを被った者たちは何も答えない。
だが、一人がアイリスに向けて短剣を投げつけようとする動きを見せた瞬間――。

「下がれ!」

ハルドがその前に立ち、剣で短剣を弾き飛ばした。

「……無事ですか?」

「ええ、ありがとうございます」

アイリスは小さく息を吐いたが、その視線はまだ怯えている従業員に向けられていた。

「殿下、この方が重要な証言を持っています。どうか安全を確保してください」

「証言?」

レオナードがアイリスの言葉に応じ、騎士団員たちに命じる。

「その者を拘束し、保護しろ。そして、全ての影を捕らえよ。逃がすな」

騎士団員たちが動き出し、影たちは次々と捕縛された。

夜が明ける頃、別荘の応接室にて緊急会議が再び開かれた。

「先ほどの商会従業員からの証言で、盗賊たちを操っていた真の黒幕が浮かび上がりました」

騎士団長が静かに報告を始める。

「事件の背後には、特定の貴族家が物流を掌握しようと企てていたことが判明しました」

その言葉に、一同の間に重い沈黙が落ちた。
アイリスは静かに椅子に座り、次の言葉を待っていた。

「その貴族家の名は――」

報告が続けられる中、アイリスは胸の中で静かに決意を固めた。

(これで、少しは真相に近づける。だけど、これが終わりではない。まだ何かが隠されている気がする……)

王太子レオナードが彼女に目を向けた。

「貴女の行動がまた事態を動かした。だが、これ以上勝手に動かれると困る」

「私が動かなければ、この場面は訪れなかったかもしれません」

アイリスの冷静な言葉に、レオナードは一瞬だけ口元を引き締めたが、やがて短く頷いた。

「……わかった。だが、次は必ず私に報告しろ」

「承知しました、殿下」

二人の間に漂う緊張感の中、朝陽が窓から差し込んできた。
そして、さらなる波乱の予感が静かに訪れようとしていた。
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