神が授けたチートは確かに強いが、使うたびに黒歴史が更新されていく件

藤原遊

文字の大きさ
2 / 11

1

しおりを挟む
私は、静かにひざをついた。

王都の大教会。千年の祈りが積もるこの聖堂で、私は“神託”を受ける。
貴族の子女として十五歳を迎えた証、スキル授与の儀式。

私はレティシア・アルベリーヌ。
北の辺境を治めるアルベリーヌ家の嫡長女。
剣も魔法も、日々鍛えてきた。
父は負傷し、弟はまだ幼く、家を継ぐのは──私だ。

神に祈りを捧げながら、私は自分の立場を再確認していた。
家を守る力が欲しい。ただ、それだけ。
くだらない野心や虚飾にまみれたスキルではなく、現場で使える本物を。

私は目を閉じ、胸に手を当て、心の奥から祈った。

そのとき──

 

光が、差し込んだ。

 

ステンドグラスを突き抜ける眩い陽光。
肌が焼けるような熱、空気が震え、耳鳴りが響く。
意識の奥に、何かが──弾けた。

 

──そうだ。私は……死んだんだった。

 

頭の中に、記憶が流れ込む。
ビル街、深夜のデスク、メール、締切、叱責、疲弊、転倒──
あの瞬間、世界がひっくり返るように暗転して──

そして、聞いた。

あの、ふざけた神の声を。

 

《よっ。初めまして!》

 

ふざけた軽口と共に現れた“神”を、私は一生忘れない。
いや、忘れていた。無理やり、忘れさせられていた。

 

「もう疲れた。働きたくない。お願いだから、ゆっくり休ませてくれ」

私は死に際、そう叫んだ。
何も望まなかった。何も求めなかった。

──なのに。

 

《しばらく忘れさせてあげるから、大丈夫~☆ じゃ、転生スタート♪》

 

(ふざけんな……!)

私は心の中で、無音の絶叫を上げた。
神の“気遣い”とやらで無理やり異世界に叩き込まれ、
思い出したくもない黒歴史を──

今、全世界に再放送されているところである。

 

《あ、思い出したね? 久しぶり~! いや~タイミング完璧!》

 

(やめろやめろやめろ)

 

《さてさて、スキル渡すからね! 《神威福音》って言います! なんでもできる超チートだよ!》

 

(聞きたくない)

 

《で、発動条件だけど、ちょ~っとだけ儀式っぽいアレが必要で。詩文形式で神を称えてね?》

(今、祈ってる最中なんですけど!?)

 

《うん、ばっちり聞こえてるよ。周囲に! 水鏡に詠唱ばっちり映ってるからね☆》

 

聖堂の空気が、騒然とする。

水鏡にスキル名が映し出され、神官たちが読み上げ始める。

 

「スキル名、《神威福音》──加護、継続治癒、身体能力上昇、魔法適性向上、魔力制御支援、遠距離指定攻撃……」

「前例がありません! これは……一個人に与えられる域を超えています!」

 

(あの詠唱、全部聞かれてる……!?)

(しかも記録されてる……!?)

 

動けない。言い訳もできない。
膝をついたまま、神々しく祈り続けるしかない。
……表面上は、ね。

でも心の中では、私は叫んでいた。

 

(もうヤダァァァァァァァァァ!!!!)

 

神にチートスキルを与えられ、
その代償として、一生モノの黒歴史詠唱を
全国ネットに公開された瞬間だった──。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?

きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

処理中です...