神が授けたチートは確かに強いが、使うたびに黒歴史が更新されていく件

藤原遊

文字の大きさ
6 / 11

5

しおりを挟む
夕餉まで少し時間があったので、私はアーロンを辺境伯本城――別名、砦――の中へ案内することにした。

「こっちが主廊下。非常時には壁が落ちて、完全に閉じられる仕組み」

「……鉄格子ではなく石壁ごと、か。古いが実に合理的だ」

早速、アーロンは革張りの手帳を取り出してメモを取り始める。何かと几帳面な人だ。

「見ての通り、うちは“屋敷”じゃないの。戦闘と指揮が前提の本城よ。基本的には中央棟に政務、南棟に訓練場、北棟にギルド関係、東西が宿舎と生活区域って分けてる」

「建築様式は相当古いな。魔法防壁の展開基盤も、明らかに一世代前だ」

「でも魔法使いが多いから、今でも対応できてる。術式陣を張り替えて運用してるし」

「現場適応力が高いというのは、辺境らしさか……」

「うちの家系、“与えられたものを使い倒す”のが得意なの。新しい魔道技術が王都から来るのは遅いし、自分たちでやるしかないからね」

階段を上がりながら、私は壁に掛かった地図を指し示す。

「ここが魔物の侵入を想定した退避ルート。砦から城下への抜け道。訓練用だけど、実戦でも使えるわよ」

「その“実戦”が、どの程度の頻度であるのかが怖いのだが」

「月に一度くらい、境界付近で“中規模”の魔物群が発生する。季節変動で大型が来る時は週一。年に一度、想定を超える“群れ”が流れてくるから、その時は総力戦」

「……王都が遠いのも納得だな」

私たちは見張り塔へ続く階段を抜け、屋上の展望回廊に出る。そこからは、魔物の森と人の領地の境界が、夕日に照らされて赤く光っていた。

「見える? あの濃い緑が“魔の森”。空を飛ぶ魔獣も出るから、屋根は全て傾斜強め」

「城下の家屋も全て急勾配だったな。なるほど、構造の意図が読める」

「どうしてそこまで考察入れるの……?」

私は思わず呟いてしまう。アーロンは手帳を閉じながら、少しだけ表情を緩めた。

「合理的な設計を見ると、嬉しくなる質なんだ」

「……変なところでマニア気質なんだね、あなた」

「褒め言葉として受け取っておこう」

日が落ちかけて、空が茜に染まり始める。私は砦の天辺から辺境の街を見下ろしながら、ぽつりと呟く。

「ここは、厳しい場所だよ。けど、私にとっては一番“地に足がついた場所”でもある。静かに暮らしたいと思うなら、この砦の中で自分の居場所を作らないと」

「君は戦うつもりなんだな。FIREを目指しながらも」

「戦わないと、FIREできないもの。誰も傷つかない世界になって、はじめて私は退ける。だからその日まで、頑張るよ」

アーロンは黙って頷き、手帳の最後のページを閉じた。

「……じゃあ、その日が来るまで、俺も一緒に頑張るとしよう。戦わずにFIREなんて、君が許さないだろうから」

私はちょっとだけ微笑んだ。

「うん。許さないよ」

風が吹いて、砦の鐘が夕食を告げる。訓練を終えた兵士たちの声が、城下へと流れていく。

私は心の中で静かに思う。

――さあ、明日からが本番だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?

きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

料理スキルしか取り柄がない令嬢ですが、冷徹騎士団長の胃袋を掴んだら国一番の寵姫になってしまいました

さくら
恋愛
婚約破棄された伯爵令嬢クラリッサ。 裁縫も舞踏も楽器も壊滅的、唯一の取り柄は――料理だけ。 「貴族の娘が台所仕事など恥だ」と笑われ、家からも見放され、辺境の冷徹騎士団長のもとへ“料理番”として嫁入りすることに。 恐れられる団長レオンハルトは無表情で冷徹。けれど、彼の皿はいつも空っぽで……? 温かいシチューで兵の心を癒し、香草の香りで団長の孤独を溶かす。気づけば彼の灰色の瞳は、わたしだけを見つめていた。 ――料理しかできないはずの私が、いつの間にか「国一番の寵姫」と呼ばれている!? 胃袋から始まるシンデレラストーリー、ここに開幕!

処理中です...