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魔王討伐編
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広大な謁見の間は、冷たく乾いた空気に満たされていた。天井まで続く大きな窓から射し込む光が、床に敷かれた古びた赤い絨毯を照らしている。しかし、その陽光が暖かさをもたらすことはなかった。むしろ、この部屋に漂う緊張感を際立たせているようだった。
レイナは膝をつき、頭を垂れたまま何も言わなかった。目の前には、王国の象徴ともいえる黄金の玉座があり、その上には痩せ細った王が座っている。彼の目には覇気がなく、まるでこの国そのものが体現されたかのように疲弊している。
「魔王討伐の報奨金が、我が国の未来を左右する。」
王の声はかすれていたが、その言葉には強い威圧感があった。
「エストヴェインが滅びの危機に瀕していることは、言うまでもないだろう。周囲の国々は我々を見限り、救援も期待できない。唯一の道は、ローデリア帝国が約束する魔王討伐の報奨金を手に入れることだ。」
レイナはうっすらと顔を上げ、王の顔を見た。その目には焦りと恐怖、そして一縷の望みが宿っている。まるで自分の手に負えない運命を他人に押しつけるかのような目だ。
「そのために、貴様に任務を与える。」
王の隣に立っていた側近が一歩前に出る。彼は冷たい笑みを浮かべながら、淡々とした口調で続けた。
「ローデリア帝国が送り出す勇者カイル。そのパーティに加わり、討伐を成功させた暁には、功績をエストヴェイン王国のものとして報告するのだ。」
レイナの心はかすかに揺れた。この命令がどれほど無茶であるか、自分自身が一番よく分かっている。ローデリア帝国の最重要人物であるカイルの信用を得るどころか、討伐の主導権を奪うなど不可能に近い。それでも、断る選択肢など彼女には残されていなかった。
「この国のために働けば、お前の妹の治療も引き続き支援する。それがこの任務を果たす動機としては十分だろう?」
側近の言葉に、レイナは無意識に拳を握りしめた。治療費。彼らは妹の命を人質に取っているのだ。だからこそ、彼女は迷わずに頭を下げるしかなかった。
「かしこまりました。必ず任務を全ういたします。」
「よろしい。報告は逐一、こちらの魔道具を通じて行え。お前がカイルの信頼を得ることが何より重要だ。」
側近が差し出したのは、黒く小さな魔石が埋め込まれた装置だった。通信専用の魔道具だ。これを使えば、任務の進捗を国に報告し続けなければならない。
レイナは魔道具を受け取り、それを胸元にしまい込む。その瞬間、喉の奥に苦いものがこみ上げるのを感じた。これで完全に逃げ場はなくなった。祖国のため、妹のため――その言葉を繰り返して自分を納得させる以外、道はない。
「レイナよ。国の命運はお前にかかっている。忘れるな、失敗は許されない。」
王の最後の言葉が冷たく響く。レイナは深く一礼し、ゆっくりと立ち上がった。足を動かすたび、彼女の心の中で「使命」という言葉が重くのしかかる。
謁見の間を後にした瞬間、廊下に出たレイナはようやく息をついた。緊張と苛立ち、そして後悔の入り混じった感情が、体の中で渦を巻いている。
「これでいい。これで、リリアは救われる……。」
その言葉を口にしてみても、どこか虚しい響きが残った。自分のしていることが正しいのか、それすら分からなくなりそうだった。
廊下の窓から見える灰色の空を眺めながら、レイナは小さく拳を握り直す。どれだけ心が迷おうと、進むしかない。これ以上迷っている時間はないのだ。
レイナは膝をつき、頭を垂れたまま何も言わなかった。目の前には、王国の象徴ともいえる黄金の玉座があり、その上には痩せ細った王が座っている。彼の目には覇気がなく、まるでこの国そのものが体現されたかのように疲弊している。
「魔王討伐の報奨金が、我が国の未来を左右する。」
王の声はかすれていたが、その言葉には強い威圧感があった。
「エストヴェインが滅びの危機に瀕していることは、言うまでもないだろう。周囲の国々は我々を見限り、救援も期待できない。唯一の道は、ローデリア帝国が約束する魔王討伐の報奨金を手に入れることだ。」
レイナはうっすらと顔を上げ、王の顔を見た。その目には焦りと恐怖、そして一縷の望みが宿っている。まるで自分の手に負えない運命を他人に押しつけるかのような目だ。
「そのために、貴様に任務を与える。」
王の隣に立っていた側近が一歩前に出る。彼は冷たい笑みを浮かべながら、淡々とした口調で続けた。
「ローデリア帝国が送り出す勇者カイル。そのパーティに加わり、討伐を成功させた暁には、功績をエストヴェイン王国のものとして報告するのだ。」
レイナの心はかすかに揺れた。この命令がどれほど無茶であるか、自分自身が一番よく分かっている。ローデリア帝国の最重要人物であるカイルの信用を得るどころか、討伐の主導権を奪うなど不可能に近い。それでも、断る選択肢など彼女には残されていなかった。
「この国のために働けば、お前の妹の治療も引き続き支援する。それがこの任務を果たす動機としては十分だろう?」
側近の言葉に、レイナは無意識に拳を握りしめた。治療費。彼らは妹の命を人質に取っているのだ。だからこそ、彼女は迷わずに頭を下げるしかなかった。
「かしこまりました。必ず任務を全ういたします。」
「よろしい。報告は逐一、こちらの魔道具を通じて行え。お前がカイルの信頼を得ることが何より重要だ。」
側近が差し出したのは、黒く小さな魔石が埋め込まれた装置だった。通信専用の魔道具だ。これを使えば、任務の進捗を国に報告し続けなければならない。
レイナは魔道具を受け取り、それを胸元にしまい込む。その瞬間、喉の奥に苦いものがこみ上げるのを感じた。これで完全に逃げ場はなくなった。祖国のため、妹のため――その言葉を繰り返して自分を納得させる以外、道はない。
「レイナよ。国の命運はお前にかかっている。忘れるな、失敗は許されない。」
王の最後の言葉が冷たく響く。レイナは深く一礼し、ゆっくりと立ち上がった。足を動かすたび、彼女の心の中で「使命」という言葉が重くのしかかる。
謁見の間を後にした瞬間、廊下に出たレイナはようやく息をついた。緊張と苛立ち、そして後悔の入り混じった感情が、体の中で渦を巻いている。
「これでいい。これで、リリアは救われる……。」
その言葉を口にしてみても、どこか虚しい響きが残った。自分のしていることが正しいのか、それすら分からなくなりそうだった。
廊下の窓から見える灰色の空を眺めながら、レイナは小さく拳を握り直す。どれだけ心が迷おうと、進むしかない。これ以上迷っている時間はないのだ。
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