勇者パーティの裏切るはずの魔法使いですが、祖国を再建することになりました？

魔王討伐編

4

ローデリア帝国の城門前には、旅の準備を整えた五人の姿があった。まだ朝も早い時間だというのに、城門付近には商人や兵士、行商人たちの姿がちらほら見える。冷たい風が吹き抜け、遠くの山々が霞む中、これから始まる旅の厳しさを暗示しているようだった。

カイルは先頭に立ち、振り返って全員を見渡した。彼の隣にはエリスが立っている。その落ち着いた微笑みが、彼の隣にいることが当然だとでも言うように自然だった。グレンは少し後ろで剣を背負い、無言で全体を見守っている。ルークはカイルの後ろで荷物を片手に持ちながら、どこか気の抜けた様子であくびをしている。そして最後尾にはレイナ。彼女は静かに遠くを見つめ、特に何も言わない。

「よし、みんな揃ったね。」

カイルは明るい声で言うと、一歩前に進み、全員を見渡した。表情には自信と期待が満ちている。

「これから僕たちは魔王を討伐するための旅に出る。だけど、その目的だけじゃない。世界を守るために僕たちは一つにならなきゃいけない。」

「随分とお堅いお話だね。」

ルークが軽口を叩いた。

「それより、その山分けの約束は本当なんだろうな？　いや、いいんだよ？　ただ、たまにリーダーって奴は気が変わるからさ。」

「ルーク！」

エリスが困ったように睨む。

「旅が始まる前からそういうこと言わないの。」

「いやいや、確認は大事だろ？」

ルークはにやりと笑いながら肩をすくめた。

カイルはそんなやり取りに苦笑しつつ、はっきりと言葉を続けた。

「もちろんだ。報奨金は山分けにする。それに、僕はそのお金で十分だ。君たちの努力がなければ、僕一人じゃ何もできないんだから。」

「……甘いリーダーだ。」

グレンが低い声でぽつりと呟いた。

「それでもいい。」

カイルはグレンの言葉を真っ直ぐに受け止めた。

「一人ではできないことを、僕たち全員で成し遂げる。それがこの旅の意義だと信じてる。」

グレンは答えず、少し目を逸らした。その横顔には、わずかに安堵の色が見えるようだった。

「まあ、俺は楽して報奨金をもらえればいいよ。」

ルークが手を振りながら笑う。

「その軽い態度、いつまで続くかしら。」

レイナが冷たく言い放つ。

「いやいや、そんな怖い顔しないでくれよ、レイナ嬢ちゃん。君の魔法があれば安心だ。」

「そう。」

レイナは興味なさそうに視線を外したが、内心では少しだけ肩の力が抜けていた。

「みんな、ありがとう。」

カイルがもう一度全員を見渡した。

「これから始まる旅はきっと大変だ。でも、僕たちならやれる。そう信じてる。」

そう言い終えると、カイルは一歩先へと進んだ。その背中を追うように、エリスが微笑みながら歩き出し、続いてグレン、ルーク、そしてレイナが足を踏み出した。

風が少し強くなり、レイナはマントを掴む手に力を入れる。これから始まる旅路の果てに何が待っているのか、自分には分からない。ただ一つだけ分かるのは、この人たちの信頼を裏切ることになるかもしれないという恐怖だった。

「……これでいい。」

レイナは小さく呟く。それが自分への言い訳だと分かっていても、そう言わずにはいられなかった。彼女が見上げた空は、どこまでも灰色だった。