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“スタンピート”。
六年前、あの名で呼ばれた魔物の氾濫は、確かにこの街を飲み込もうとしていた。
獣の咆哮、焼け焦げた建物の匂い、剣の軋み、血と土と鉄の味。
あれは、確かに地獄だった。
それでも私は最後まで戦ったし、生き延びた。
仲間の何人かは戻らなかったけれど、街は残った。それで充分だった。
……それが、私の「英雄」としての最後だった。
今は町外れの小さな家で、Bランク冒険者としてのんびり生きている。
あの戦いで肩を壊してから、槍は振れなくなった。
代わりに剣に持ち替えたけれど、もうSランクには戻れない。
それでも、生活していくには困らない程度には動けるし、腕もなまらせてはいない。
このくらいでいい。
もう無理はしない。求められない場所に無理に立ち続けるつもりはない。
庭の薪棚は今朝積み直した。
鶏は三羽、卵は二つ。野菜は干して、パンは残り一切れ。
今日は午後から天気が崩れるかもしれない。空気が湿っている。
それなら、午前のうちに森へ出て、薪を拾っておくのがいい。
私は、生まれつき魔力を持っていない。
医者には「限りなくゼロ」と言われた。
普通の人間なら、誰でも多少は魔力がある。
でも私は、本当にまったくないらしい。
魔法は使えないし、回復魔法もかからない。
けれど、それで困ることはほとんどなかった。
魔力がない分、身体を鍛えた。
魔法が使えないからこそ、剣を覚え、地に足をつけて戦うしかなかった。
おかげで、どんな魔物相手でも、殴れば何とかなるという結論に至った。
魔法が使えないことを呪ったことは、一度もない。
……たぶん、私はそういうふうにできているのだろう。
今の暮らしは悪くない。
誰にも頼まれず、誰にも期待されず、朝は鳥の声で目を覚まし、夜は早く寝る。
本を読み、剣を研ぎ、たまに仕事をこなして、あとは静かな日々。
それで、充分だと思っていた。
──けれど、この日はほんの少しだけ、違っていた。
森に入ったとき、風の中に、かすかに血の匂いが混じっていた。
六年前、あの名で呼ばれた魔物の氾濫は、確かにこの街を飲み込もうとしていた。
獣の咆哮、焼け焦げた建物の匂い、剣の軋み、血と土と鉄の味。
あれは、確かに地獄だった。
それでも私は最後まで戦ったし、生き延びた。
仲間の何人かは戻らなかったけれど、街は残った。それで充分だった。
……それが、私の「英雄」としての最後だった。
今は町外れの小さな家で、Bランク冒険者としてのんびり生きている。
あの戦いで肩を壊してから、槍は振れなくなった。
代わりに剣に持ち替えたけれど、もうSランクには戻れない。
それでも、生活していくには困らない程度には動けるし、腕もなまらせてはいない。
このくらいでいい。
もう無理はしない。求められない場所に無理に立ち続けるつもりはない。
庭の薪棚は今朝積み直した。
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今日は午後から天気が崩れるかもしれない。空気が湿っている。
それなら、午前のうちに森へ出て、薪を拾っておくのがいい。
私は、生まれつき魔力を持っていない。
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でも私は、本当にまったくないらしい。
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けれど、それで困ることはほとんどなかった。
魔力がない分、身体を鍛えた。
魔法が使えないからこそ、剣を覚え、地に足をつけて戦うしかなかった。
おかげで、どんな魔物相手でも、殴れば何とかなるという結論に至った。
魔法が使えないことを呪ったことは、一度もない。
……たぶん、私はそういうふうにできているのだろう。
今の暮らしは悪くない。
誰にも頼まれず、誰にも期待されず、朝は鳥の声で目を覚まし、夜は早く寝る。
本を読み、剣を研ぎ、たまに仕事をこなして、あとは静かな日々。
それで、充分だと思っていた。
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