病弱を装う王女ですが、弟の未来のためならどんな手でも使います【完結】

藤原遊

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夜。離宮の小書斎に蝋燭の灯が揺れていた。
誰にも知られぬよう、窓には遮光布がかけられ、扉にはエドガー自身の結界が張られている。

「……特定できました、“発信源”」

ソファの背に軽く体を預けながら、エドガーが低い声で告げた。

「中心は“アレスタ・マルキス”。辺境の子爵家の娘で、いま都に出てきて婚活中。
例の“社交婦人サロン”の常連です。姫様の名前を口にしていたのを、二度確認しました」

「彼女が、自発的に?」

「そこが怪しい」
エドガーは手帳を開くと、何かの図式を書いたページを開いて見せる。

「サロンの主催者は“エルヴィラ・セリオン”。
第一王子と縁の深い侯爵家の娘で、いわば“都の華”。
このエルヴィラが、アレスタを巧妙に“使ってる”節があるんです」

「使ってる……」

「アレスタの周辺で動いていた侍女が、今はセリオン家の侍女に吸収されてる。
間に動いたのは、第一王子派に連なる財務省の官吏」

リリーナはゆっくりと頷いた。
つまり、アレスタは単なる“駒”。その背後にこそ意図がある。

「内容は、“姫様は過労で衰弱”“白魔法で自壊している”という路線でしたか?」

「ええ。悪意ある婉曲表現で、“王位争いに関わらせては危険”という印象操作」

「……なるほど。王位継承候補から、私を“自然に除外”したいのね。
そして、ユリアンの後見人としての立場も否定させたい」

リリーナは静かに目を伏せる。
けれどその瞳には、冷えた光が宿っていた。

「やる気ね、第一王子の周辺。早すぎる動きではあるけれど……」

「それだけ“リリーナ派”の動きが目障りになってきたってことです。
庶民からの支持が急速に集まり始めた。低位貴族の一部も、姫様に協力的です」

リリーナは小さく笑った。
それは、慈愛ではなく、“覚悟”の微笑だった。

「では、“火”を撒いた者には、“煙”を返さなければなりませんね。
……次は私の番。情報を流しましょう、“第一王子は妹を案じている”と」

「……それだけ?」

「ええ。事実ではあるもの。だって彼、心配していたでしょう?」

「確かに」
エドガーは苦笑する。

「ただそれだけで、“陣営をまとめきれていない”という印象を与えられる。
身内を甘やかす王は、貴族にとって“危険”なのよ」

「了解。……姫様、敵が明確になったけど、怯えたりしませんか?」

「“敵”がいるということは、私たちが前に出た証。
怯えるのは、こちらを見ない者の特権でしょう?」

蝋燭がふ、と揺れた。

帳面に新たな名が記され、線が引かれ、網が広がっていく。

 

(さあ、次は──盤上に駒を出す番よ)

 
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