病弱を装う王女ですが、弟の未来のためならどんな手でも使います【完結】

藤原遊

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木々の緑が濃くなり、鳥たちのさえずりが夏の訪れを告げていた。
離宮の寝室にも、季節の気配は確かに届いている。

大きく開かれた窓からは、風に揺れる木洩れ日と、遠くの蝉の声。
その中で、リリーナは寝椅子に凭れながら静かに本を読んでいた。

ノックとともに、扉が開く。

「姉さま……!」

ぱたぱたと走ってきたのは、夏服に着替えたユリアンだった。

「お姉さま、もう……もう、ほんとに大丈夫?」

リリーナは微笑んで、膝に来た弟の髪をそっと撫でた。

「ええ。おかげさまで、ね。もう痛くないし、熱もないわ。心配かけてごめんなさい」

「ううん……ぼく、こわかった」
ユリアンの声が震えている。

「ずっと、ずっと心配で……。それで、ぼく、剣の稽古と魔法の勉強、すっごく頑張ってるんだよ!」

「まあ、偉いわね。お兄様にご報告しなきゃ」

「それでね……どうしたら、姉さまが、ずっとぼくのそばにいてくれるかなって考えたの」

ユリアンは小さく言って、リリーナの手をぎゅっと握った。

「ぼく……なにか、できることがあるなら、なんでもするから」

リリーナは少しだけ目を細めた。
弟の瞳には、子どもには似つかわしくない焦燥と切実さが浮かんでいる。

「そうね……。ユリアンのお守りがあったら、姉さまも安心かもしれないな」

「おまもり……?」

「魔石のことよ。自分で魔力を込めて作った、あなた自身の護符。
通例だと10歳から作り始めるけれど……」

「それ、ぼく、作る! 作れるように頑張る!
姉さまに渡す、ぼくの初めてのお守り……絶対に!」

リリーナは笑って頷いた。

「じゃあ、お約束。お姉さま、楽しみにしているわね」

「うんっ!」

 

◆ ◆ ◆

 

ユリアンが帰っていった後、リリーナは静かに息を吐いた。
胸の奥にまだ残る薄い痛みを、魔法ではなく、弟の言葉が少し和らげてくれる。

(十歳の誕生日……そのとき、彼がどれだけ成長しているかしら)

季節は巡って、夏。
それは同時に、選別の季節でもある。

新たな王位継承者として、ユリアンが他の王族と比べられ、測られ、晒される時期。

けれど――彼が「守る側」になる日を、私は誰より待ち望んでいる。

白いカーテンが風に揺れた。

その向こうに、夏の青空が広がっていた。
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