病弱を装う王女ですが、弟の未来のためならどんな手でも使います【完結】

藤原遊

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王都の空に雪が舞いはじめたのは、昼過ぎのことだった。
白くけぶる冬空の下、静かに時を刻む王城では、ひときわ柔らかな光が灯っていた。

今日はユリアン・アリステリア王子の十一歳の誕生日。
小規模ながら格式ある祝宴が開かれ、王族とごく近しい貴族だけが招かれている。

煌びやかな宴の中央、最も人目を引いたのは――王子ではなく、姉リリーナだった。

氷花のような銀白のドレスに身を包み、微笑を湛えるその姿は、まさに“聖女”の名にふさわしく、
しばらく宮廷から遠ざかっていた彼女が、久しぶりに元気な姿を見せたとあって、来賓たちの間でも囁きが広がっていた。

「姉さま、今日はちゃんと来てくれた」

真っ直ぐな声がリリーナの胸に届く。

ユリアンはやや大きくなった礼装を着て、少しだけ誇らしげに立っていた。
目元にあどけなさは残るものの、その瞳には彼なりの決意が宿っている。

「ええ。あなたの晴れ舞台を見届けないなんて、あり得ないもの」
「ちゃんと元気になってくれて、よかった……本当によかった」

彼はぽつりと、胸元のアクアマリンに視線を落とした。
リリーナが贈った魔石の守りは、今も変わらず彼の命の護りとして身につけられている。

「私のほうこそ、あなたがこの一年、よく頑張ったことが嬉しいわ」
「……姉さまのためでもあるから」

それは無垢な言葉だったが、どこか熱を含んでいて、リリーナの胸をほんの少しだけ痛ませた。

その頃、祝宴の端では、第一王子――ヴァルセリオスが杯を片手に、窓の外を見ていた。
凍るような冬の気配を前に、彼の眉間には珍しく皺が刻まれている。

「……きな臭いな」

ぽつりと漏らした独り言。
彼が気にしているのは、隣国ファルデアとパールバの情勢だった。

先月から両国は国境で軍をぶつける寸前まで接近し、今なお睨み合いが続いている。
ファルデアにとっての“仮想敵”が変わったことは、まだアリステリア中枢には読み切れていない。

「戦が起これば、火の粉は必ずこちらにも飛ぶ。……妹と弟だけは巻き込ませたくないが、さて」

彼の呟きは、凍てる風に溶けていく。

宴の光が照らす中、
リリーナは微笑みながら、ユリアンと手を重ねていた。

今は、何よりもこのひとときを守りたい。
そう願うだけの、静かな幸福に――アクアマリンが小さく、淡く光っていた。
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