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秋が、王都を赤く染めていた。
広場の並木は深紅の葉を揺らし、街道を歩く人々の足元には落ち葉が積もっていく。
だが、その美しい景色とは裏腹に、城内の空気は徐々にきな臭さを帯びはじめていた。
「最近、第一王子殿下が政務に顔を出す頻度が上がっていますね」
執務室の窓を閉めながら、エドガーがぽつりと呟く。
その背中越しに、リリーナは書類から視線を外さず答えた。
「……それだけではないわ。陛下のご意向を“代弁”する形で動く貴族が、目立ってきた」
「既に、第一王子が“次の王”として当然のように扱われている――そんな空気ですね」
カミラが苦々しげに書簡を投げ出す。
王位継承はまだ決まっていない。だが、第一王子を中心とする派閥は、既に「決まった」かのような振る舞いを始めていた。
それは公然とした策ではなく、礼節を守り、王を敬い、ただ「政治を支えるために」と口にする穏やかなものだった。
だが、その実――確実に、“既成事実”を積み上げていた。
「名指しで何かを主張するわけではない。それが逆に厄介ね」
リリーナは紅茶のカップを手に取り、小さく口をつけた。
「“弟の即位を望んでいる”と私が明言したわけでもない。けれど……周囲は、それを見越して動いてくる」
「ええ。第一王子派の狙いは、“他に選択肢はない”と思わせることですから」
「……牽制、ですね」
カミラが頷く。
「こちらが正式に動いていないからこそ、“追い落とす理由”が作れない。だから、空気を作ってくる。息の詰まるやり方だわ」
リリーナは立ち上がり、窓辺へ向かう。
冷たい秋風が、赤い葉をさらっていった。
「このままでは、彼の未来が決まってしまう」
その言葉は、誰よりも静かで、誰よりも鋭かった。
「ユリアン王子は――今も訓練を?」
「ええ。剣も、魔法も……少しずつですが、身についてきています。無邪気に、“姉さまを守れるように強くなりたい”と」
リリーナの胸が、かすかに痛む。
ユリアンはまだ十一歳。
けれど、その小さな背に乗るものが、日に日に重くなっていくことを、彼はまだ知らない。
「……せめて、夢だけは守らなければね」
窓辺に立つリリーナの指が、胸元のアクアマリンをそっと撫でた。
それは、弟がくれた、ただ一つの宝物。
「庶民院への奨学生に加え、商人ギルドとも話をしておくわ。下からの声が、上を縛ることもあるから」
「また動き出すのね。……無理はしないで。血を吐かれても困るから」
「大丈夫。今は、私自身の身体より――彼の未来の方が大切よ」
秋風が窓を叩いた。
火種はまだ燻っている。けれど、それは確かに、紅葉の下に存在していた。
広場の並木は深紅の葉を揺らし、街道を歩く人々の足元には落ち葉が積もっていく。
だが、その美しい景色とは裏腹に、城内の空気は徐々にきな臭さを帯びはじめていた。
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執務室の窓を閉めながら、エドガーがぽつりと呟く。
その背中越しに、リリーナは書類から視線を外さず答えた。
「……それだけではないわ。陛下のご意向を“代弁”する形で動く貴族が、目立ってきた」
「既に、第一王子が“次の王”として当然のように扱われている――そんな空気ですね」
カミラが苦々しげに書簡を投げ出す。
王位継承はまだ決まっていない。だが、第一王子を中心とする派閥は、既に「決まった」かのような振る舞いを始めていた。
それは公然とした策ではなく、礼節を守り、王を敬い、ただ「政治を支えるために」と口にする穏やかなものだった。
だが、その実――確実に、“既成事実”を積み上げていた。
「名指しで何かを主張するわけではない。それが逆に厄介ね」
リリーナは紅茶のカップを手に取り、小さく口をつけた。
「“弟の即位を望んでいる”と私が明言したわけでもない。けれど……周囲は、それを見越して動いてくる」
「ええ。第一王子派の狙いは、“他に選択肢はない”と思わせることですから」
「……牽制、ですね」
カミラが頷く。
「こちらが正式に動いていないからこそ、“追い落とす理由”が作れない。だから、空気を作ってくる。息の詰まるやり方だわ」
リリーナは立ち上がり、窓辺へ向かう。
冷たい秋風が、赤い葉をさらっていった。
「このままでは、彼の未来が決まってしまう」
その言葉は、誰よりも静かで、誰よりも鋭かった。
「ユリアン王子は――今も訓練を?」
「ええ。剣も、魔法も……少しずつですが、身についてきています。無邪気に、“姉さまを守れるように強くなりたい”と」
リリーナの胸が、かすかに痛む。
ユリアンはまだ十一歳。
けれど、その小さな背に乗るものが、日に日に重くなっていくことを、彼はまだ知らない。
「……せめて、夢だけは守らなければね」
窓辺に立つリリーナの指が、胸元のアクアマリンをそっと撫でた。
それは、弟がくれた、ただ一つの宝物。
「庶民院への奨学生に加え、商人ギルドとも話をしておくわ。下からの声が、上を縛ることもあるから」
「また動き出すのね。……無理はしないで。血を吐かれても困るから」
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