病弱を装う王女ですが、弟の未来のためならどんな手でも使います【完結】

藤原遊

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夏は、喧騒とともにやってくる。
王都の空は高く澄み、陽射しは容赦なく石畳を焼いた。
だが、その暑さの裏で――火花のように危うい駆け引きが水面下で交差している。

 

「……やっぱり、あなたでしたのね」

リリーナは一枚の書状を手にしていた。
表向きは礼状、だが文の端には別の筆跡で書かれた、わずかな数字と符号が添えられている。
これは彼女の慈善活動を通じて繋がった者たちが使う暗号で、**“情報網の中枢がつかんだ主犯格”**を示していた。

「宰相家の紹介で登用された商会……けれどその後ろには、第一王子陣営の有力貴族の影……」

彼女は口元を覆い、窓辺から外を見下ろす。
陽射しの中、人々は平和に見えた。
だが、その足元で着々と仕掛けられた罠が、じわじわと王座を取り囲もうとしている。

 

「敵の資金源も手法も、これで大方見えてきました。後は動かすだけです」

エドガーが影のように現れる。
彼の表情には滅多に見せぬ、冷たい鋭さがあった。

「泳がせるには、もう充分でしたね」

「ええ。でも……私たちの手も、あまり長くは伸ばせない。そろそろ本格的に“囲い込み”を始めましょう」

「承知しました。カミラ様もすでに動き始めています。証拠を揃え、秋の議会で討つ算段を」

「間に合えば、ね」

リリーナは、そっと胸元のアクアマリンを握りしめた。
もう一つの魔石――ダイヤモンドのお守りは、今日もユリアンの胸で光っていることだろう。

(守らなければならない。彼が踏み込む未来から、あの子を――)

 

午後の陽光の中、リリーナは重いドレスの裾を翻し、静かに執務室を出る。
夏の陽炎のような、不確かな影がそこかしこに揺らめいている。

けれど、リリーナの足取りは迷いがない。
自らを“道具”として使い切る覚悟は、すでに決まっている。

その瞳には、燃え立つような冷静さが宿っていた。
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