病弱を装う王女ですが、弟の未来のためならどんな手でも使います【完結】

藤原遊

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初夏の空はどこまでも高く、青さを誇るかのように澄んでいた。だが、王都の空気は冷え切っていた。
否――冷気ではない。沈黙と恐怖が貴族たちの肺を締めつけていた。

王城の奥、政務の間。
ユリアンは深紅の正装を纏い、玉座にも似た椅子に静かに座っていた。
細めた瞳は、もはや少年のそれではない。
そこに宿るのは、標的を見定めた獣の研ぎ澄まされた光だった。

「カミラ、例の三家の調査報告は」

「終わっているわ。証拠も揃っている。
民の物資を横流しし、戦地から戻らぬ兵士の遺族年金を懐に入れていた記録もね」

カミラは涼やかな声で言いながら、重ねた資料をテーブルに置いた。
その顔に、以前のような皮肉めいた笑みはなかった。

「あなたが『やる』と言ったときから、止めるつもりはなかったけれど……リリーナ様のためなのね」

ユリアンは返事をしなかった。
そのかわり、静かに席を立ち、窓の外を見た。
離宮の方向。――そこには今もなお、静養する姉がいる。

「リリーナ姉上は、あの夜……何も言わずに僕を庇った。
命を捨てる覚悟で。僕を生かすために」

その声には、酷薄なまでの冷たさと、底知れぬ熱が混ざっていた。

「ならば、僕はその命の価値を証明しなければならない。
この国を汚す連中に、姉上の血が流された意味を思い知らせてやる」

それは、優しい少年ユリアンの終焉だった。
王族の名を纏い、王座へと歩む者の目になっていた。

カミラは一つ息を吐き、薄く笑う。

「ええ、やりましょう。
ただし、やりすぎて“ただの暴君”にはならないようにね。リリーナ様が悲しむ」

「……わかってる。悲しませないために、やるんだ」

命を拾ってしまった。
だから、生半可な正義では足りない。
この手で、ナタを振るい、穢れた根を断ち切る。

ユリアンは、粛清の名のもとに王都の貴族を一掃しはじめる。
それは、政敵の処罰という枠にとどまらず、不正に関わった商人や官吏たちにも及び、王都の空気は一気に引き締まった。

やがて庶民たちは、囁くようになる。
“氷の王子”が、本気になった――と。

そしてその刃の裏で、離宮のリリーナは未だ、淡い香に包まれ、静かに瞼を閉じていた。
だが、彼女の願いが形を成し、誰よりも真っ直ぐに届いていたことを、今はまだ知らずにいる。
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