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第六章 仮面の向こうに
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隣国との正式交渉を翌日に控え、王城の大広間では前段となる会議が開かれていた。
宰相をはじめとする重臣、各派の有力貴族、さらに隣国の使節団の随行官までもが列席し、外交方針を最終的に固めるための重要な場である。
磨き上げられた大理石の床はシャンデリアの光を反射し、荘厳な空気を演出していた。
しかし、その均衡は唐突に破られる。
「――やはり新興貴族の娘など、国の要職に置くべきではなかった!」
伝統派の一人が声を張り上げ、偽造された外交文書を掲げた。
細工は巧妙で、事情を知らぬ者には真実味を帯びて見える。
広間に冷たいざわめきが走り、視線が一斉に私へと注がれた。
喉が凍りつくような緊張。
だが、隣に立つクリストファー様はゆるやかに立ち上がった。
「……なるほど」
彼はいつもの美しい笑顔を浮かべたまま、掲げられた文書を手に取り一瞥する。
柔らかな声色の奥に、氷の刃のような冷徹さが潜んでいた。
「これを証拠と称するのですか。――お笑い種ですね」
会場の空気が張り詰める。
「第一に、この筆跡。三箇所で不自然に歪んでいる。
第二に、使用された印蝋。宰相府のものではなく、市井で廉価に取引される粗悪品です。
第三に、翻訳。隣国の正式な礼式を理解していれば決して用いない表現が散見される」
淡々と、しかし鋭利に突きつけられる指摘に、告発者は顔を紅潮させ言葉を失った。
ざわめきが広間を包み、伝統派の顔色は次々と青ざめていく。
私は机上の資料を取り、隣国の随行官が持参した文書と突き合わせた。
「こちらをご覧ください。この部分は本来こう訳すべきです」
そう示すと、随行官が頷き、偽造であることを裏付ける。
「……やはり宰相府の言が正しい」
「証拠を捏造するなど、国益を損ねる行為だ」
非難の声が次々と重なり、ベルナール公爵派の者たちは完全に追い詰められた。
それでもクリストファー様は微笑を崩さない。
だがその瞳は冷徹に輝き、情け容赦のない光を帯びていた。
「ベルナール公爵家が外交の場を乱した責任を問われ、国王陛下の裁可によりすでに領地を削られたことは、皆が承知のはずです。
――あれが隣国への配慮から下された温情であったことすら、理解できなかったのですか?」
広間は凍りついた。
完璧な笑顔を浮かべながら放たれるその言葉は鋭く、誰一人として言い返せない。
伝統派の者たちは震え、ただ沈黙するしかなかった。
私は隣で記録を整え、宰相へと差し出す。
守られるだけではなく、ともに戦う一員として陰謀を打ち砕けたことに、胸が熱くなる。
――これが、あの夜彼が告げた「守る」という誓い。
それは空言ではなく、今ここで現実となっている。
こうして伝統派の最後の策は、宰相副官クリストファーとその補佐官セラフィーナによって完全に潰えたのであった。
宰相をはじめとする重臣、各派の有力貴族、さらに隣国の使節団の随行官までもが列席し、外交方針を最終的に固めるための重要な場である。
磨き上げられた大理石の床はシャンデリアの光を反射し、荘厳な空気を演出していた。
しかし、その均衡は唐突に破られる。
「――やはり新興貴族の娘など、国の要職に置くべきではなかった!」
伝統派の一人が声を張り上げ、偽造された外交文書を掲げた。
細工は巧妙で、事情を知らぬ者には真実味を帯びて見える。
広間に冷たいざわめきが走り、視線が一斉に私へと注がれた。
喉が凍りつくような緊張。
だが、隣に立つクリストファー様はゆるやかに立ち上がった。
「……なるほど」
彼はいつもの美しい笑顔を浮かべたまま、掲げられた文書を手に取り一瞥する。
柔らかな声色の奥に、氷の刃のような冷徹さが潜んでいた。
「これを証拠と称するのですか。――お笑い種ですね」
会場の空気が張り詰める。
「第一に、この筆跡。三箇所で不自然に歪んでいる。
第二に、使用された印蝋。宰相府のものではなく、市井で廉価に取引される粗悪品です。
第三に、翻訳。隣国の正式な礼式を理解していれば決して用いない表現が散見される」
淡々と、しかし鋭利に突きつけられる指摘に、告発者は顔を紅潮させ言葉を失った。
ざわめきが広間を包み、伝統派の顔色は次々と青ざめていく。
私は机上の資料を取り、隣国の随行官が持参した文書と突き合わせた。
「こちらをご覧ください。この部分は本来こう訳すべきです」
そう示すと、随行官が頷き、偽造であることを裏付ける。
「……やはり宰相府の言が正しい」
「証拠を捏造するなど、国益を損ねる行為だ」
非難の声が次々と重なり、ベルナール公爵派の者たちは完全に追い詰められた。
それでもクリストファー様は微笑を崩さない。
だがその瞳は冷徹に輝き、情け容赦のない光を帯びていた。
「ベルナール公爵家が外交の場を乱した責任を問われ、国王陛下の裁可によりすでに領地を削られたことは、皆が承知のはずです。
――あれが隣国への配慮から下された温情であったことすら、理解できなかったのですか?」
広間は凍りついた。
完璧な笑顔を浮かべながら放たれるその言葉は鋭く、誰一人として言い返せない。
伝統派の者たちは震え、ただ沈黙するしかなかった。
私は隣で記録を整え、宰相へと差し出す。
守られるだけではなく、ともに戦う一員として陰謀を打ち砕けたことに、胸が熱くなる。
――これが、あの夜彼が告げた「守る」という誓い。
それは空言ではなく、今ここで現実となっている。
こうして伝統派の最後の策は、宰相副官クリストファーとその補佐官セラフィーナによって完全に潰えたのであった。
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