21 / 50
第3章 ダンジョン攻略
3-5
しおりを挟む
転移陣の残滓が、床に淡く揺れている。
それが消えるまでのわずかな時間、誰も動かなかった。
「……行ったな」
ベル先輩が剣を下ろす。
その声で、ようやく呼吸を思い出した。
胸の奥に溜まっていたものを吐き出すように、私は息をつく。
敵は撤退した。
それは事実だ。
けれど、勝った感覚はどこにもない。
「先に進むぞ」
ベル先輩の言葉で、全員が頷く。
今は立ち止まる理由がなかった。
ダンジョンの奥に進むにつれ、空気が変わる。
重い。
濃い魔力が、肌にまとわりつく。
やがて、巨大な扉が現れた。
「……ボス部屋だ」
レオンが低く呟く。
扉の周囲には、明らかな戦闘痕が残っていた。
削れた壁。
床に刻まれた魔法陣の跡。
そして――
「ここで、一度やってるな」
ベル先輩の視線が、床の一点に止まる。
私も同じものを見ていた。
斬撃の角度。
魔力の残り方。
――魔王軍が、先に来ている。
「でも……」
ルカが慎重に言葉を選ぶ。
「ボスは……万全、ですね」
扉の向こうから伝わってくる気配は、濁りがない。
削られた様子は、どこにもない。
その事実が、遅れて胸に落ちてくる。
時間を空けられた。
意図的に。
「……なるほど」
ベル先輩が、短く息を吐いた。
「やるな」
それだけだった。
理由の説明はない。
でも、全員が同じ結論に辿り着いている。
削らない。
決着をつけない。
条件が揃う前に引く。
敵として、合理的な判断。
――リュシエル先輩は、そう選んだ。
味方じゃない。
もう、同じ側にはいない。
それを突きつけられるようで、胸の奥がわずかに痛んだ。
「来るぞ」
扉が、軋む音を立てて開く。
次の瞬間、ダンジョンボスが姿を現した。
巨体が床を踏みしめるたび、空気が震える。
咆哮が、鼓膜を叩いた。
「レオン、前!」
「了解!」
ベル先輩が前に出る。
レオンがその横を固め、フレイが気配を消して回り込む。
私は弓を引いた。
狙うのは、急所じゃない。
動きを鈍らせる部位。
魔力の流れを乱す箇所。
矢が放たれ、同時に魔力を流し込む。
防御低下。
反応遅延。
「効いてる!」
フレイの短い声。
だが、ボスは止まらない。
爪が振り下ろされ、ベル先輩の剣とぶつかる。
火花が散る。
「ルカ!」
「来てます!」
回復魔法が飛ぶ。
それでも、間に合わない場面が増えていく。
――リュシエル先輩なら。
そんな考えが、無意識に浮かんでしまう。
即座に、打ち消した。
いない。
今ここにいるのは、私たちだけだ。
「ユリア!」
ベル先輩の声で、意識が戻る。
私は矢を連射する。
状態異常を重ね、動きを削る。
レオンが吠え、ボスの注意を引きつける。
フレイが影から飛び出し、関節を斬る。
全員が、自分の役割を果たしている。
時間が、長く感じられた。
それでも。
「――今だ!」
ベル先輩の合図。
全てを合わせる。
私の最後の矢が、防御を崩した瞬間。
ベル先輩の剣が、核を貫いた。
轟音とともに、巨体が崩れ落ちる。
しばらく、誰も動かなかった。
やがて、鍵が現れる。
「……やった、な」
レオンが笑う。
私は、息を整えながら思った。
守られなくても、立てる。
それでも――
体に染みついた判断や間合いは、
間違いなく、先輩たちに教えられたものだった。
敵になっても、
その事実だけは、消えない。
私は鍵を見つめ、弓を下ろした。
戦いは、まだ終わっていない。
それが消えるまでのわずかな時間、誰も動かなかった。
「……行ったな」
ベル先輩が剣を下ろす。
その声で、ようやく呼吸を思い出した。
胸の奥に溜まっていたものを吐き出すように、私は息をつく。
敵は撤退した。
それは事実だ。
けれど、勝った感覚はどこにもない。
「先に進むぞ」
ベル先輩の言葉で、全員が頷く。
今は立ち止まる理由がなかった。
ダンジョンの奥に進むにつれ、空気が変わる。
重い。
濃い魔力が、肌にまとわりつく。
やがて、巨大な扉が現れた。
「……ボス部屋だ」
レオンが低く呟く。
扉の周囲には、明らかな戦闘痕が残っていた。
削れた壁。
床に刻まれた魔法陣の跡。
そして――
「ここで、一度やってるな」
ベル先輩の視線が、床の一点に止まる。
私も同じものを見ていた。
斬撃の角度。
魔力の残り方。
――魔王軍が、先に来ている。
「でも……」
ルカが慎重に言葉を選ぶ。
「ボスは……万全、ですね」
扉の向こうから伝わってくる気配は、濁りがない。
削られた様子は、どこにもない。
その事実が、遅れて胸に落ちてくる。
時間を空けられた。
意図的に。
「……なるほど」
ベル先輩が、短く息を吐いた。
「やるな」
それだけだった。
理由の説明はない。
でも、全員が同じ結論に辿り着いている。
削らない。
決着をつけない。
条件が揃う前に引く。
敵として、合理的な判断。
――リュシエル先輩は、そう選んだ。
味方じゃない。
もう、同じ側にはいない。
それを突きつけられるようで、胸の奥がわずかに痛んだ。
「来るぞ」
扉が、軋む音を立てて開く。
次の瞬間、ダンジョンボスが姿を現した。
巨体が床を踏みしめるたび、空気が震える。
咆哮が、鼓膜を叩いた。
「レオン、前!」
「了解!」
ベル先輩が前に出る。
レオンがその横を固め、フレイが気配を消して回り込む。
私は弓を引いた。
狙うのは、急所じゃない。
動きを鈍らせる部位。
魔力の流れを乱す箇所。
矢が放たれ、同時に魔力を流し込む。
防御低下。
反応遅延。
「効いてる!」
フレイの短い声。
だが、ボスは止まらない。
爪が振り下ろされ、ベル先輩の剣とぶつかる。
火花が散る。
「ルカ!」
「来てます!」
回復魔法が飛ぶ。
それでも、間に合わない場面が増えていく。
――リュシエル先輩なら。
そんな考えが、無意識に浮かんでしまう。
即座に、打ち消した。
いない。
今ここにいるのは、私たちだけだ。
「ユリア!」
ベル先輩の声で、意識が戻る。
私は矢を連射する。
状態異常を重ね、動きを削る。
レオンが吠え、ボスの注意を引きつける。
フレイが影から飛び出し、関節を斬る。
全員が、自分の役割を果たしている。
時間が、長く感じられた。
それでも。
「――今だ!」
ベル先輩の合図。
全てを合わせる。
私の最後の矢が、防御を崩した瞬間。
ベル先輩の剣が、核を貫いた。
轟音とともに、巨体が崩れ落ちる。
しばらく、誰も動かなかった。
やがて、鍵が現れる。
「……やった、な」
レオンが笑う。
私は、息を整えながら思った。
守られなくても、立てる。
それでも――
体に染みついた判断や間合いは、
間違いなく、先輩たちに教えられたものだった。
敵になっても、
その事実だけは、消えない。
私は鍵を見つめ、弓を下ろした。
戦いは、まだ終わっていない。
0
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
転生者のブルーノは絶大な力を持っていたが、その力を隠してダンジョンの荷役として暮らしていた。だが、教会の力で勇者を騙る卑怯下劣な連中に、レットドラゴンから逃げるための生贄として、ボス部屋に放置された。腐敗した教会と冒険者ギルドが結託て偽の勇者パーティーを作り、ぼろ儲けしているのだ。ブルーノは誰が何をしていても気にしないし、自分で狩った美味しいドラゴンを食べて暮らせればよかったのだが、殺されたブルーノの為に教会や冒険者ギルドのマスターを敵対した受付嬢が殺されるのを見過ごせなくて・・・・・・
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる