101号室の鍵

廃墟ホテル

11

五人が通路を走り抜けた先、闇の中にぽつんと現れた一枚の扉。その扉だけが不自然に浮かび上がるように光を放っているのを見て、全員の足が止まった。

「これ……何だ？」
陽介が懐中電灯を扉に向ける。そこには黒ずんだ木製の扉があり、古びた真鍮のプレートに「201」と刻まれていた。手垢や汚れで文字はかすれていたが、辛うじて読める。

「201号室？……部屋？」
奈緒が息を整えながら言った。

「おかしいな。こんな地下に部屋なんてあるのか？」
大樹が怪訝そうな顔をする。

「それに……なんで、こんなに静かなんだ？」
隼人が周囲を見回しながら呟く。確かに、通路の奥から聞こえていた異形の足音や気配は、この場所にたどり着いた途端に消え失せていた。

「とにかく……入ろう。ここが罠だとしても、立ち止まってたらまた追いつかれる。」
陽介が言い、ゆっくりとドアノブを回した。

扉を開けると、そこにはまるで時間が止まったような空間が広がっていた。古びたカーペット、壁にかけられた油絵、埃をかぶったシャンデリア――かつての豪華なホテルの客室そのものだった。

「……どうなってんだ、これ。」
隼人が呆然と部屋を見回した。

「ここだけ……異常に普通。」
真理が低い声で言う。

「安全……ってことか？」
大樹が慎重に室内に足を踏み入れる。部屋の空気は静まり返り、どこか重さのある静けさだったが、恐怖を感じる気配はない。彼らは全員、慎重に部屋の中へと入っていった。

扉を閉めると、誰ともなくため息をつく。

「ここ、本当に安全なのかも……」
奈緒が恐る恐る壁にもたれかかりながら呟いた。
「さっきまでの……あの気配が嘘みたい。」

「でも、なんでここだけ……こんなに普通なんだ？」
隼人が頭を掻きながら部屋を見回す。

その時、大樹が部屋の中央に置かれた小さな机の上に、何かを見つけた。古びたノートだ。ページが何度もめくられたように角が丸まり、紙は黄ばんでいる。

「これ……。」
大樹がノートを手に取ると、ページの一部に赤いインクで記された文字があった。

「白き刃は闇を裂く。」
「封印を完成させる者、力を使う者、その代償を忘れるな。」

「代償……？」
真理がその文字を読み上げ、顔を曇らせた。

「封印……ってことは、やっぱりこのホテル全体がその仕掛けの一部ってことか。」
陽介が言った。

「でも、その『代償』って……どういう意味だ？」
隼人が恐怖を押し隠すように笑いながら言う。
「使ったやつが呪われるとか……そういう話か？」

その冗談めいた声にも、誰も笑わなかった。

「このノートに書いてある内容……全部解読しないと、先に進んでも無駄になるかもしれない。」
真理がそう言うと、部屋に静かな緊張感が漂った。

その時、陽介が部屋の隅に目を留めた。小さなテーブルの上に、錆びついた金属の鍵が置かれている。手に取ると、そこには見覚えのある刻印があった。

「101号室……？」
陽介が呟く。

「え……それ、最初にいた部屋の鍵じゃない？」
奈緒が驚きの声を上げる。

「何でここに……？あの部屋に置いてきたはずだろ。」
隼人が不思議そうに言った。

「意味があるのかもしれない……。この鍵が、またあの部屋に戻れって言ってるような……。」
真理が考え込むように言った。

「戻れって……嫌だぞ。あの部屋には戻りたくねえ。」
隼人が吐き捨てるように言う。

「でも、これが手がかりになるなら、無視するわけにはいかない。」
陽介が鍵を握りしめ、そう言った。

部屋の静けさの中で、不安と焦りが入り混じる中、全員が次に進むべき道を考え始めた。