妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊

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第1章 転生令息の目覚め

1-3

朝、まだ空が白んでいるうちに起きた。
鏡の前の俺の顔は、寝不足と決意でひどい。

「よし、今日が決戦だ。」

妹の未来を救うため、ヒロインを口説く。
我ながら意味不明な作戦だが、理屈は通っている。たぶん。

執事のロバートがノックした。
「おはようございます、坊ちゃま。本日は……早いお目覚めで?」

「うむ。世界を救う日だからな。」

「……は?」

やや引きつった声を無視して、俺は指を鳴らした。
「ロバート、花束を。最高品質のバラを百本だ。」

「……妹君への贈り物でしょうか?」

「いや、今日は“ヒロイン”だ。」

ロバートの手が止まった。
「……本日のお相手は、“令嬢”なのですね?」

「(強く頷く)世界のためだ。」

彼は完璧な無表情で頭を下げた。
さすがプロだ。主人の暴走には慣れている。

鏡の前に立ち、俺は口説き文句の練習を始めた。
「フ、フローラ嬢……あなたの笑顔が、私の太陽です……!」
……ダメだ、恥ずか死ぬ。
理屈では正しいが、感情が追いつかない。

「落ち着け、これは恋じゃない。戦略だ。作戦行動だ。」

そう自分に言い聞かせながら、赤くなった頬を扇子であおぐ。
どこの悪役令息だよ、これ。

そのまま馬車に乗り込み、王立学園へ向かう。
今朝の目的はただひとつ。
“フローラ・エヴァンジェリンとの運命的出会い”イベントを、俺が先に潰すこと。

彼女は庶民出の奨学生。
蜂蜜色の髪が朝日で透けて、緑の瞳がまっすぐに輝く。
努力家で、礼儀正しくて、少しドジ。
守ってあげたくなるタイプ。
……いや、待て。今「守ってあげたい」って思ったか?
違う、これは兄心だ! 社会人としての庇護欲だ!!

そんな言い訳を繰り返しているうちに、学園の庭園が見えてきた。
花壇の前に、フローラがいた。
制服の裾を直しながら、花に話しかけている。
ああ、原作通りの登場だ。
癒し系ヒロイン、ここに降臨。

「よし、行けアラン。ここで決めるんだ。」

花束を握りしめ、俺は深呼吸をした。
が、その瞬間――背後から低い声がした。

「……君は、朝からずいぶん楽しそうだな。」

ぞくりとして振り返る。
王立学園の制服に金の刺繍。
黒に近い青髪、金の瞳――王太子シリウス殿下。

なぜ、今、ここに。

花束を抱えたまま固まる俺を、殿下は静かに見つめていた。
唇がわずかに動く。

「……その花は、誰に渡すつもりだ?」

……え、まって、それ聞かないで。

──俺の花束大作戦、開始一秒で王族に見つかった。
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