妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊

文字の大きさ
30 / 150
第6章 お茶会の誤算

6-5

お茶会が終わりに近づくころ、
庭には夕陽が傾き、花の影が長く伸びていた。

テーブルの上には、飲みかけの紅茶と半分残った焼き菓子。
談笑の声も穏やかで、どこか名残惜しい雰囲気が漂っている。

(よし、今日の目的は達成したはず。
 ヒロイン好感度は上昇、殿下の印象も悪くない。
 これで“破滅ルート”は――少し遠のいたな。)

俺は胸の内で静かにガッツポーズを決めた。

リリィも微笑んでいる。
フローラ嬢も穏やかに紅茶を口にしていた。

完璧だ。
やっと平和な流れが作れた。

(よし、ここで最後の印象づけ。
 フローラ嬢に丁寧にお礼を言って締めよう。)

俺は姿勢を正し、彼女の方を見た。

――その瞬間。

視線の先に、別の“誰か”がいた。

夕陽の光を背に立つ、黒に近い青髪。
金の瞳が、まっすぐこちらを見ていた。

(……え?)

ほんの一瞬の錯覚だと思った。
でも、違う。
その瞳は確かに――俺を見ていた。

まるで、言葉よりも強く「見ている」と告げるように。

呼吸が止まる。
胸の奥で何かが静かに跳ねた。

「……殿下?」

声が出たのは、反射だった。
シリウス殿下は、ゆっくりと一歩こちらへ近づく。

「どうかされましたか?」

「い、いえ……あの、その、フローラ嬢に――」

「フローラ嬢に?」

金の瞳が揺れない。
焦点は、どこまでも俺の中を見透かしてくる。

(いやいやいや、待って。俺、今、ヒロイン見てただけ!
 ヒロインを見てたら、なぜ殿下がフレームインするの!?)

焦りで頭の中がショートする。
でも、目が離せない。
殿下の瞳に映る“俺”が、あまりにもまっすぐすぎて。

(……おかしいな。なんで俺、こんなに息が苦しいんだ。)

沈黙。
その隙間を縫うように、風が花びらを揺らした。

フローラが小さく首を傾げる。
リリィは、完璧な笑顔のまま、
そっとティーカップを持ち上げた。

(妹よ、なぜそんな微笑みをしている……!?)

「……そろそろ時間だ。」

殿下が静かに言う。
そして、ほんの一瞬だけ――微笑んだ。

その笑みは、王族としての礼節に見えた。
けれど、それ以上の何かが確かに混ざっていた。

「君の視線の向かう先が、どこであっても――私は構わない。」

「……え?」

「ただ、君が笑っていれば、それでいい。」

穏やかな声。
けれど、その言葉の裏に、何か深い意味があるようで――
俺は何も言い返せなかった。

リリィの指が、カップの縁をなぞる。
フローラが、何かを言いかけてやめた。

夕陽が沈む。
最後に見たのは、金の瞳が光を宿す瞬間。

(……どうしてだろう。
 まっすぐ見られるだけで、こんなに心臓が痛い。)

──その視線が“罠”だと気づくのは、もう少し先のことだった。
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。 この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。 ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

推しの運命を変えるため、モブの俺は嫌われ役を演じた

月冬
BL
乙女ゲームの世界に転生した俺は、ただのモブキャラ。 推しキャラのレオンは、本来なら主人公と結ばれる攻略対象だった。 だから距離を置くつもりだったのに―― 気づけば、孤独だった彼の隣にいた。 「モブは選ばれない」 そう思っていたのに、 なぜかシナリオがどんどん壊れていく。 これは、 推しの未来を知るモブが、運命を変えてしまう物語。

悪役令息の兄って需要ありますか?

焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。 その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。 これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。

噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。

春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。  新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。  ___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。  ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。  しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。  常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___ 「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」  ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。  寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。  髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?    

【完結。一気読みできます!】悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!

はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。 本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる…… そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。 いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか? そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。 ……いや、違う! そうじゃない!! 悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!! 

悪役令嬢の兄に転生!破滅フラグ回避でスローライフを目指すはずが、氷の騎士に溺愛されてます

水凪しおん
BL
三十代半ばの平凡な会社員だった俺は、ある日、乙女ゲーム『君と紡ぐ光の協奏曲』の世界に転生した。 しかも、最推しの悪役令嬢リリアナの兄、アシェルとして。 このままでは妹は断罪され、一家は没落、俺は処刑される運命だ。 そんな未来は絶対に回避しなくてはならない。 俺の夢は、穏やかなスローライフを送ること。ゲームの知識を駆使して妹を心優しい少女に育て上げ、次々と破滅フラグをへし折っていく。 順調に進むスローライフ計画だったが、関わると面倒な攻略対象、「氷の騎士」サイラスになぜか興味を持たれてしまった。 家庭菜園にまで現れる彼に困惑する俺。 だがそれはやがて、国を揺るがす陰謀と、甘く激しい恋の始まりを告げる序曲に過ぎなかった――。

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。