妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊

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第27章 理解者たちの絆

27-4

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夕暮れの光が、王宮の書斎を金色に染めていた。
さっきまでの紅茶の香りがまだほのかに残っていて、
その中でリリィは静かに引き出しを開けた。

「……母がよく使っていたのです。
 大切な人と約束を結ぶとき、言葉の代わりにこれを結ぶと」

差し出されたのは、一本のリボン。
淡い白に銀糸の縁取り。光を受けて、まるで息をしているかのように揺れていた。

「リリィ様、それを……」
「ええ。言葉だけでは足りませんわ。
 フローラ様となら、形にして残したいのです」

フローラの胸の奥がふっと熱を帯びる。
彼女はリリィの差し出した端をそっと取った。
絹の感触が指先に触れる――その瞬間、互いの視線が重なる。

結び目を作る指先が、ほんの少し触れ合う。
そこに恋ではない、もっと穏やかで深いものがあった。

「……この結びは、あの方々のために」
「そして、わたしたち自身のためにも」

言葉を交わしながら、ゆっくりと結び目が締まる。
ふたりの心が、音もなくひとつに整っていくようだった。

きゅっ、と小さな音が響く。
たったそれだけで、この部屋の空気が変わる。

フローラは結び目を見つめながら囁いた。
「ほどく時が来るとしても――それは、平穏の中であってほしいですわね」
「ええ。争いのためではなく、いつか“誰もが幸せになった後”に」

リリィは微笑み、両手でそのリボンを包み込んだ。
指先がほんのり温かい。
その熱を残したまま、彼女は机の引き出しをゆっくり開ける。

中には古い書簡や、幼い頃の手紙がいくつか並んでいた。
そこにリボンをそっと置く。
まるで、まだ言葉にならない祈りを閉じ込めるように。

引き出しを閉じた瞬間、柔らかな風が窓から吹き込んだ。
カーテンが揺れ、光の粒がふたりの肩に落ちる。

「これで、もう大丈夫ですわね」
「ええ。どんな未来が来ても――この結びがあれば」

ふたりは小さく微笑み合い、再び紅茶の香りが満ちる。
その穏やかな沈黙の中で、フローラは静かに思った。

――愛を守る誓いとは、誰にも見せぬほど、静かなものなのだと。
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