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リゼ1
4.鮮やかな
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ある時、リゼはアルフレートを探してルース川の工事現場に来ていた。
隣領から来客があることを失念し、兄が出掛けてしまったのだ。
リゼは兄に連れられて進捗を見て回ることも多いため、技師たちや現場で作業をしている領民がリゼに声を掛けてくる。
「おおリゼさん。今日は一人ですかい」
「お邪魔しています。兄を探しているんですが、見かけませんでしたか?」
「今日はまだお会いしてませんねぇ。資材置場の方じゃないですかい」
言われたとおりリゼが資材置場に向かう途中、横から作業員が飛び出してきた。彼は手に持っている荷物に気を取られ前を見ていなかったようだ。
「おい、あぶねえなぁ! あ? 何で女がこんなとこにいるんだ?」
リゼが見たことのない男だった。領の外から工事に来た人足だろう。
邪魔にならないよう注意していたつもりだったが、作業員でもないリゼが現場にいるのは確かに安全とは言えない。
「すみません、家族を探しています。見つけたらすぐに出ますので」
「家族だか何だか知らんが、現場に女が入っちゃいけねぇのは工事の常識だ。さっさと帰れ」
男と問答をしていると、作業員たちが集まってきた。顔見知りの者も何人かいて、リゼの肩を持ってくれる。
「おいおい、その人は領主さんの妹さんだよ。現場をよく知ってる人だから大丈夫だ」
「そうだぞ。いつも領主さんと一緒に来られてるんだ。お前はよそから来たから知らないんだろうがな」
「俺は色んな現場で働いてきたが、どこも女は立ち入り禁止だった! 危ないし現場の士気も下がるってもんだ! 事故が起こったらどうすんだよ!!」
ぶつかりかけた男も間違ったことは言っていないが、多勢に無勢の様相を呈してきた。
味方がおらず自棄になった男が叫ぶ。
「お貴族様の身内なんざどうせ道楽に決まってる! 馬車で乗り付けて現場を荒らされちゃ迷惑なんだよ!」
「何の騒ぎですか」
そこにギルベルトが通りかかった。
みなが萎縮するなか、最初の男が声を上げる。
「ここの現場は女がいていいんですか。工事に関係ない人がいたら危ないと思って、俺は……」
「彼女はあなた方の休憩時間を増やしたり、救護所の薬の手配などを行っていますから、関係なら大いにあります。それにここには馬で来て離れた場所に繋いでいるので現場を荒らしてなどいません。そうですね?」
男を諭したギルベルトが最後にこちらに問いかけ、リゼは小さく頷いた。
あれほど騒がしかった周囲が静まり返っている。
「ですが、やはり危険であるのも事実です。こちらに来る際は一人ではなくご当主と同伴するか供の者をつけてください」
険悪になりかけていた場をギルベルトはいとも容易く収め、双方に遺恨を残さない形で決着をつけた。
その鮮やかな手腕を目の当たりにしたリゼは、彼の観察眼と説得力に感嘆し、尊敬の思いを新たにした。
その後リゼはギルベルトと共に資材置場に行き、無事にアルフレートと合流した。
「妹君を一人で現場に寄越さないように」とギルベルトから釘を刺され、自分のうっかりが現場に招いた混乱を知ったアルフレートは、顔色を赤や青に忙しなく変えるのだった。
隣領から来客があることを失念し、兄が出掛けてしまったのだ。
リゼは兄に連れられて進捗を見て回ることも多いため、技師たちや現場で作業をしている領民がリゼに声を掛けてくる。
「おおリゼさん。今日は一人ですかい」
「お邪魔しています。兄を探しているんですが、見かけませんでしたか?」
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邪魔にならないよう注意していたつもりだったが、作業員でもないリゼが現場にいるのは確かに安全とは言えない。
「すみません、家族を探しています。見つけたらすぐに出ますので」
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男と問答をしていると、作業員たちが集まってきた。顔見知りの者も何人かいて、リゼの肩を持ってくれる。
「おいおい、その人は領主さんの妹さんだよ。現場をよく知ってる人だから大丈夫だ」
「そうだぞ。いつも領主さんと一緒に来られてるんだ。お前はよそから来たから知らないんだろうがな」
「俺は色んな現場で働いてきたが、どこも女は立ち入り禁止だった! 危ないし現場の士気も下がるってもんだ! 事故が起こったらどうすんだよ!!」
ぶつかりかけた男も間違ったことは言っていないが、多勢に無勢の様相を呈してきた。
味方がおらず自棄になった男が叫ぶ。
「お貴族様の身内なんざどうせ道楽に決まってる! 馬車で乗り付けて現場を荒らされちゃ迷惑なんだよ!」
「何の騒ぎですか」
そこにギルベルトが通りかかった。
みなが萎縮するなか、最初の男が声を上げる。
「ここの現場は女がいていいんですか。工事に関係ない人がいたら危ないと思って、俺は……」
「彼女はあなた方の休憩時間を増やしたり、救護所の薬の手配などを行っていますから、関係なら大いにあります。それにここには馬で来て離れた場所に繋いでいるので現場を荒らしてなどいません。そうですね?」
男を諭したギルベルトが最後にこちらに問いかけ、リゼは小さく頷いた。
あれほど騒がしかった周囲が静まり返っている。
「ですが、やはり危険であるのも事実です。こちらに来る際は一人ではなくご当主と同伴するか供の者をつけてください」
険悪になりかけていた場をギルベルトはいとも容易く収め、双方に遺恨を残さない形で決着をつけた。
その鮮やかな手腕を目の当たりにしたリゼは、彼の観察眼と説得力に感嘆し、尊敬の思いを新たにした。
その後リゼはギルベルトと共に資材置場に行き、無事にアルフレートと合流した。
「妹君を一人で現場に寄越さないように」とギルベルトから釘を刺され、自分のうっかりが現場に招いた混乱を知ったアルフレートは、顔色を赤や青に忙しなく変えるのだった。
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