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リゼ1
9.後見人ロランツ・ケイブ
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完成間近の街道を通る道程は、天候にも恵まれ想像以上に快適だった。
休憩の際にはギルベルトも交えて食事を摂る。彼は言葉数は少ないながらもリゼの身を案じてくれているようだった。
三日間の旅路を終え、王都に着いた。
リゼと共にケイブ邸内へ入るギルベルトにローラが声を掛ける。
「あらギルベルト君、うちに寄っていってくれるのね。可愛い甥っ子が来てくれてうちの人もきっと喜ぶわ」
なんと後見人はギルベルトの叔父らしい。
ギルベルトがそのまま歳を重ねたような厳めしい人物を想像しリゼの背筋が伸びる。けれど後見人と対面してすぐに、それは杞憂だったとわかった。
「やあ初めましてリゼ君。遠いところ来てくれてありがとう。僕はロランツ・ケイブ。ギルベルトのいる地方調整室の室長をしているよ」
年の頃はおそらく四十すぎ、リゼの記憶の中の父くらいだろうか。国の偉いお役人というイメージからは程遠く、愛嬌と親しみに溢れている。夫婦ともに人好きのする性格のようだ。
「今は寄宿舎にいるけど、うちには男の子しかいなくてね。だから娘が出来るみたいで楽しみにしていたんだ。リゼと呼んでもいいかい?あ、僕のことはお兄ちゃんとでも呼んでくれればいいからね」
「室長、娘と言いながらそのように呼ばせるのはいかがなものかと」
「おやギルベルト、ようこそ我が家へ。うちの奥さんの護衛ご苦労様だったね。ちょっと僕は今リゼと話しているからね」
「あなた、いくらなんでもお兄ちゃんはどうなのかしら。ほら、リゼさんも呆れてるわ」
「だからと言ってお父様というのは違うだろう? ロランツさんなんて呼ばれても家族らしさがなくて寂しいんだ」
わいわいと楽しげに話が進む。その賑やかな雰囲気に、両親がいた頃を思い出したリゼは懐かしさに胸が詰まった。
「リゼ嬢どこか具合でも?」
自分にかけられた声にふと我に返ると、ギルベルトがこちらを見ていた。彼が工事の進捗を見る時と同じ、まっすぐな目だ。
きっと彼はこうしていつも周囲に気を配っているのだろう。無表情にただ見ている、それ以上でも以下でもない視線だが、リゼの些細な様子に気づいて声をかけてくれたことが嬉しかった。
「いいえ大丈夫です。ありがとうございます」
笑顔で答えたつもりだけれど、おかしな顔になっていなかっただろうか。ギルベルトと話す時リゼは、表情がぎこちなくなる気がする。
──きっとギルベルト様の表情のなさに気後れしてしまうのだわ。
心の中でそう結論づけて、後見人夫妻との会話に意識を戻す。
結局ロランツのことは『おじ様』と呼ぶことになった。
休憩の際にはギルベルトも交えて食事を摂る。彼は言葉数は少ないながらもリゼの身を案じてくれているようだった。
三日間の旅路を終え、王都に着いた。
リゼと共にケイブ邸内へ入るギルベルトにローラが声を掛ける。
「あらギルベルト君、うちに寄っていってくれるのね。可愛い甥っ子が来てくれてうちの人もきっと喜ぶわ」
なんと後見人はギルベルトの叔父らしい。
ギルベルトがそのまま歳を重ねたような厳めしい人物を想像しリゼの背筋が伸びる。けれど後見人と対面してすぐに、それは杞憂だったとわかった。
「やあ初めましてリゼ君。遠いところ来てくれてありがとう。僕はロランツ・ケイブ。ギルベルトのいる地方調整室の室長をしているよ」
年の頃はおそらく四十すぎ、リゼの記憶の中の父くらいだろうか。国の偉いお役人というイメージからは程遠く、愛嬌と親しみに溢れている。夫婦ともに人好きのする性格のようだ。
「今は寄宿舎にいるけど、うちには男の子しかいなくてね。だから娘が出来るみたいで楽しみにしていたんだ。リゼと呼んでもいいかい?あ、僕のことはお兄ちゃんとでも呼んでくれればいいからね」
「室長、娘と言いながらそのように呼ばせるのはいかがなものかと」
「おやギルベルト、ようこそ我が家へ。うちの奥さんの護衛ご苦労様だったね。ちょっと僕は今リゼと話しているからね」
「あなた、いくらなんでもお兄ちゃんはどうなのかしら。ほら、リゼさんも呆れてるわ」
「だからと言ってお父様というのは違うだろう? ロランツさんなんて呼ばれても家族らしさがなくて寂しいんだ」
わいわいと楽しげに話が進む。その賑やかな雰囲気に、両親がいた頃を思い出したリゼは懐かしさに胸が詰まった。
「リゼ嬢どこか具合でも?」
自分にかけられた声にふと我に返ると、ギルベルトがこちらを見ていた。彼が工事の進捗を見る時と同じ、まっすぐな目だ。
きっと彼はこうしていつも周囲に気を配っているのだろう。無表情にただ見ている、それ以上でも以下でもない視線だが、リゼの些細な様子に気づいて声をかけてくれたことが嬉しかった。
「いいえ大丈夫です。ありがとうございます」
笑顔で答えたつもりだけれど、おかしな顔になっていなかっただろうか。ギルベルトと話す時リゼは、表情がぎこちなくなる気がする。
──きっとギルベルト様の表情のなさに気後れしてしまうのだわ。
心の中でそう結論づけて、後見人夫妻との会話に意識を戻す。
結局ロランツのことは『おじ様』と呼ぶことになった。
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