【完結】ルースの祈り ~笑顔も涙もすべて~

ねるねわかば

文字の大きさ
10 / 69
リゼ1

8.後見人の妻ローラ

しおりを挟む
 王都から来た迎えの馬車には、ギルベルトの上司の妻ローラが乗っていた。

 ローラは夫の不在を丁寧に詫び、後見人としてしっかり面倒を見ると兄たちに頭を下げた。
 兄や義姉より十ほど年上に思えるが、残される家族を慮り誠実に接するローラに、リゼは好感を覚えた。

 馬車に乗り込んだローラはいくぶん砕けた調子で話し出す。

「改めましてリゼさん。ローラ・ケイブよ。夫はロランツっていうの。夫婦で似た名前でしょう?会うのは王都に着いてからになるけど、今は名前だけでも覚えてあげてね」

 茶目っ気たっぷりに笑うローラに、リゼの緊張はゆるやかに解れていった。



 王都までの道中、リゼの仕事について説明を受ける。
 なんと王女宮で侍女として働くそうだ。

「王女殿下の宮に私のような者が上がって大丈夫でしょうか? マナーは子爵家のものですし、教養も独学で……」

「そこよ! 独学で領主の補佐なんてそうできることではないわ。もちろん指導もするけれど、教わらなくても察して正しく動けることが私たち侍女には必要なの」

「そういうものなのですか。あの、ローラさんも王女宮で侍女をされているのですか?」

 依然不安は大きいが、ローラも同じ職場にいるなら心強いと思い訊ねてみる。

「私は以前は王宮で侍女をしていたけど、出産を機に辞めたの。でも王女殿下のお輿入れが決まってから人手が足りないと呼び戻されてね。今はリゼさんと同じ臨時の侍女よ」

 侍女の経験があり、再度請われて王女宮にいるローラがリゼと同じはずはない。けれどローラのその言葉のお陰でリゼの気持ちは軽くなった。

「それにね、特定の方にお仕えするわけじゃないから難しく考えなくても大丈夫。
 とにかく王女宮全体が忙しいから、言い方は悪いけれど雑用係のようなものだと考えてあまり気負わないでね」

「雑用なら私にも出来そうです。何でもおっしゃってください」

「ふふ、やっと良い顔で笑ってくれたわね。無茶を言う人はいない職場だから安心して。それで出仕するときの格好だけど───」


 その後もローラから仕事に関することを色々と教えてもらった。
 服装は自前のドレスでもお仕着せでもどちらでも良いそうだ。リゼは母のお下がりのドレスを一着持っているだけなので、お仕着せがあるのはありがたい。

「役職がついたり偉い方にお仕えするようになればドレスも必要になってくるんだけどね。当面はお仕着せと、あとは私のお下がりで良ければもらってくれないかしら?」

「私がいただいていいのですか?」

「いいのよ。私が着るにはもう若すぎるものだからリゼさんが着てくれるとドレスも喜ぶわ。仕立て直しも頼んでおくわね」


 住まいは侍女用の宿舎に入るよう手配をしてもらっているが、しばらくはケイブ邸に滞在させてもらうらしい。

 ──ローラさんはとてもいい方だし、お仕事もどうにかやっていけそうで良かったわ。ギルベルト様の上役の方はどんなお方なのかしら。

 そこまで考えて、何気なく窓の外を見る。騎乗したギルベルトが並走していた。
  ローラがリゼの視線に気づいて可笑しそうに言った。

「私は護衛を雇うだけでいいと思っていたんだけど、ギルベルト君が行くと申し出てくれて。侯爵家のご子息様をお供にするなんて畏れ多いったらないわ」

 そう言って笑うローラと、いつもの無表情で前を見ているギルベルトが対照的で、リゼもつい笑ってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

処理中です...