【完結】ルースの祈り ~笑顔も涙もすべて~

ねるねわかば

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リゼ1

11.臨時の侍女

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 リゼは鏡の前で身だしなみを確認していた。

 ドレスはお仕着せを借りた。ゆったり目の胴衣を共布の腰リボンで調節するドレスは、機能性と優美さを兼ね備えている。ローラのお下がりの仕立て直しが済めば、そちらを着る予定だ。

 足にはロランツ夫妻からもらった大切な靴を履いている。柔らかい革で作られており、足に馴染んで歩きやすい。
 臨時勤めの侍女はあちこちへと駆り出されると聞いている。足に合った靴は必需品だ。


 ──髪も崩れていないかしら。

 こざっぱりとまとめた髪に、ギルベルトから贈られたリボンをあしらった。
 何の変哲もない白いリボンに見えるが、光沢のある糸が織り込まれて繊細にきらめいている。華美すぎず大袈裟ではないのにこだわりが感じられるその品は、贈り主の人となりを想起させた。


 ──あとはお守りを忘れないようにしないと。

 最後に子どもの頃から持ち歩いている石の根付けを胸元にしまい、初の出仕に臨んだ。


 臨時雇いの侍女の仕事は実にシンプルだ。
 控えの間で待機し、指示された場所へ行き、指示どおりに業務をこなす。たったそれだけのことではあるが、少し気を回すだけで業務の効率が上がる。
 初日にして先輩侍女から「あなた気が利くわね」と褒められたリゼは、嬉しさのあまり終業時間を忘れて働き続けてしまうほどだった。


 つまるところ、王女宮での仕事はリゼにとても向いていた。
 少しでも兄たちの助けになるために、出来ることを常に探していた経験が役に立った。また、元々人の心の機微に敏感な質だったせいもあるだろう。

 とにもかくにも、リゼには見聞きすること全てが興味深く、日々精力的に業務をこなした。



 この日もリゼは、控えの間で次の指示を待ちわびていた。
 そこに一人の侍女が顔を出す。

「誰か使者様の部屋へ行ってくれないかしら? 荷物整理の仕事よ」

 婚姻に先立ち、王女宮には隣国の使者が長期に渡り滞在している。かの国の王太子との成婚に備えて、歴史や文化を事前に学んでおきたいという王女のたっての願いで招いた賓客だ。


「あら? ドレスの人はいないの?」

 王女宮では、自前のドレスを着た侍女が賓客の対応にあたるという暗黙の了解がある。この時、控えの間にはリゼも含めお仕着せの侍女しかいなかった。


「仕方がないわね。じゃあリゼさん。あなた手際が良いからお願いするわ」

 こうしてリゼは、隣国の使者ライナス・ジョイフェルの元へと急いだ。


 使者の部屋に向かいながら、呼びに来た侍女から指示を聞く。

「ライナス様は大らかな方なのだけど、とにかくお話がお好きでね。
あなたには荷物整理をお願いするけれど、もしライナス様からお声がかかったらお話し相手になって差し上げて」

 話というのはせいぜい挨拶や業務の指示程度かと考えていたリゼは、使者の部屋に着いて早々に考え違いを思い知った。
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